10)医薬品開発に必要な「薬価について」を知る!

                    医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

一通り「お薬」の開発について、教えて頂きましたが今日はどのようなお話になりますか?

「お薬」の価格である「薬価について」は、第6回目の「承認申請」で少し話をしましたが、もう少し説明を加えたいと思ってます。

 第10回目のテーマである「薬価について」として、今回は「医薬品の薬価制度」について、3つの項目に分けてお話したいと思います。

  (1)新医薬品の薬価の取得
  (2)既収載医薬品の薬価の改訂(基本的な調整)
  (3)既収載医薬品の薬価の改訂(補足的な調整)

 それでは、最初の話である「新医薬品の薬価の取得」については、3つのステップに分けて説明します。

   1)新医薬品の薬価算定プロセス
   2)新医薬品の薬価算定方式
   3)外国平均価格調整

(1)新医薬品の薬価の取得

1)新医薬品の薬価算定プロセス
第6回目のテーマでお話しましたように、医療用医薬品の価格は「薬価」と言います。薬価は、国の医療保険制度から、医療機関や保険薬局に支払らわれる時の「お薬」の価格のことで、製薬企業の資料等をもとに厚生労働省が決める「公定価格」になっています。つまり、製薬企業が勝手に薬価を決めることは出来ません。
・「お薬」としての承認が取れると、次に、製薬企業は薬価取得のために、薬価算定に関する資料(新しいお薬の有効性、安全性の特徴、リスクベネフィット、年間の患者さんの数、売り上げ予測等の必要な情報)を作成して、厚生労働省の「経済課」に「薬価収載希望書」を提出します。
・この資料は、外部専門家を含む「薬価算定組織」において協議され、薬価が2月、5月、8月、11月のいずれかの近い時期に決定されます(原則申請してから60日以内、遅くとも90日以内に薬価が決められます)。 
・薬価が収載されたら、製薬企業は「原則3ヶ月以内」に、新薬の製造販売を行い、それを安定供給させる義務が生じます。

 2) 新医薬品の薬価算定方式
・次に実際の「新医薬品の薬価算定方式」ですが、類似した「お薬」のあるものは、「類似薬効比較方式」によって、類似した「お薬」がないものは「原価計算方式」のいずれかの方式で行われます。

     平成28年11月30日 厚生労働省保険局医療課
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000144409.pdf

・「類似薬効比較方式」では、先ず「臨床第Ⅲ相試験」を実施した時に、「比較薬」に用いた薬剤が、例えば、1錠50円の薬価で、1回1錠1日3回投与なら、1日薬価は150円になります。一方、新しい「お薬」が1回1錠1日2回投与なら、1日薬価を「比較薬」と同じ価格である150円 とし、新しい「お薬」の1錠の薬価を75円と暫定的に算定します。
・次に、臨床試験の結果をもとにして、新薬が比較薬に比べて高い有用性、あるいは画期性が認められる場合には、その内容に応じた「補正加算(+α 分)」が付加されます。尚、類似した「お薬」のあるものでも、新規性に乏しい薬剤は、この「補正加算」はつきません。
・2つ目の方式として、類似した「お薬」がない新薬の場合には、「原価計算方式」で薬価を算定することになりますが、この場合には、その新しい「お薬」に関係する開発費、原材料費、製造原価、発売後の販促費用、人件費等を全て積み上げて暫定的な薬価を算定します。これに「補正加算」が加わる場合があります。
・尚、補正加算に関しては、令和4年の薬価基準改正で、見直しがされています。

3)外国平均価格調整
・最後に、「類似薬効比較方式」、「原価計算方式」ともに、「外国平均価格調整」として、「アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの4ヵ国」の薬価の平均値を出して、最終的な調整を行い、日本における「最初の薬価」が決定されます。

(2) 既収載医薬品の薬価改定 (基本的な調整)  

・薬価が決まって、既に発売されている医薬品、つまり薬価既収載医薬品の「薬価の改定方法」について説明しますが、初めに、薬価に対して、製薬企業、卸売販売業、医療機関・保険薬局の関係について確認しておきたいと思います。
・下図にように、製薬企業(メーカー)が卸売販売業に売る価格を「仕切価」、卸売販売業が医療機・保険薬局に卸す価格を「納入価」と呼んでいますが、医療機関・保険薬局は出来るだけ大きな薬価差(薬価/公定価格と納入価の差)の出る「納入価」を求めてきますし、製薬会社は薬価を下げないために出来るだけ高い「仕切価」を維持しようとします。
・ちなみに、製薬業者は医療機関・保険薬局と直接医薬品の価格の交渉は行わず、卸売販売業者が医療機関・保険薬局との価格の交渉を行います。実際には、卸売販売業のMS(マーケティング・スペシャリストという営業マン)」が、各医療機関・保険薬局との直接・個別の交渉を行って、「納入価」が決められています(従って、交渉次第で、同じ医薬品でも、医療機関・保険薬局毎に、薬価差の分配結果により、納入価は異なってきます。)

      厚生労働省:令和4年度薬価基準改定の概要
      https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000942947.pdf

・こういった価格の実態(公定価格でありながら、市場では利益を得るため公定価格より低い価格で取引されている)を把握するため、厚生労働省は、医療機関・保険薬局及び卸売販売業者に対し、実際いくらで売り買いされているか「市場実勢価格」の調査(「薬価調査」)を毎年実施し、その結果を基に、適正な薬価を設定するために、毎年薬価改定を行っています。
・「薬価調査」の対象は、卸売販売業者は約6000件全て、病院は全数の10分の1、診療所は全数の100分の1、保険薬局は、全数の30分の1に対して行われています。
・薬価改定時の基本的な方式は、薬価調査の結果から、一つ一つの品目毎に、「市場実勢価格の加重平均」(いわば全体での平均値)+消費税を求め、これに2%の調整幅(その医薬品の流通を安定させるための費用と言われている)を加えて、その年の改訂薬価とします。
・加重平均の意味は、1種類の医薬品について、例えば、下表で示すように、卸売販売業者(ここで は事例として3社のみとした)における販売額の合計値(12000円)を、卸売販売業者における販売錠数(230錠)で割った値 52.2円が 「加重平均」になります。このような計算を、対象となる卸売販売業者、医療機関・保険薬局の全てのデータから、1医薬品ごとに市場実勢価格の加重平均を求めることになります。

      平成28年11月30日 厚生労働省保険局医療課
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000144409.pdf

・上記の図に示すように、ある年のある医薬品の1錠の改訂前の薬価が100円とした場合、その年に実施された「市場実勢価格」の調査(「薬価調査」)から算出された「加重平均値」に消費税を加えた額(90円)に、2%の調整幅を加えて、翌年の改訂薬価(92円)が決まることになります。
・薬価が下がれば、医療機関・保険薬局は利益を得るため、もっと低い「納入価」を卸売販売業に求めてきますので、薬価は結果的にどんどん下がっていくことになります。

(3)既収載医薬品の薬価の改訂(補足的な調整)

既収載医薬品薬価の改訂の内、補足的な調整については、要点のみ説明します。
1)市場拡大再算定
・年間の販売額が予想よりも大きい時は、薬価の再算定により引き下げが行われます。
2)効能変化再算定 
・効能・効果が追加されて、年間の販売額が大きくなった場合には、薬価の再算定により引き下げが行われます。
3)長期収載品の薬価の見直し 
・長期収載品の後発品への置き換えが進んでない場合、特例的な引き下げが行われます。
4) 新薬創出・適応外薬解消等促進加算
・要件を満たす場合、一定期間新薬の薬価引下げが猶予されますが、その費用を、未承認薬、適用外薬、あるいは画期的新薬の開発に充てることが条件となります。 
5)費用対効果評価制度
・対象品目が比較品目と比較して、1年健康に寿命を延ばすために、必要な費用を算出して、評価結果に応じて、対象品目の薬価を調整する制度があります。

【今回の話の纏め】

  医薬品の薬価の算定方法には2つあり、「類似薬効比較方式」では、類似した比較薬と臨床第Ⅲ相試験を実施し、比較薬と同じ1日薬価が、先ず算定されます。類似した比較薬がない場合には、「原価計算方式」により、1日薬価を算出します。いずれも、試験成績により、補正加算が加わる場合があり、さらに海外の薬価(米、英、独、仏の4ヵ国)の平均額を参照して、最初の薬価が決定されます。
既承認医薬品の薬価の改訂では、基本的調整として、「薬価調査」の結果から、品目毎に市場実勢価格の加重平均を求め、消費税、調整幅(2%)を加えて、新薬価とします。その他、既収載医薬品の薬価改定の補足的な調整として、市場拡大再算定、効能変化再算定、長期収載品の薬価の見直し、新薬創出・適応外薬解消等促進加算等の制度があり、毎年薬価の改正が行われています。

                      医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,