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⑧ 医薬品の製造受託会社でもGMP違反による業務改善命令が発出!

                      医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

2021年前後に後発医薬品企業等で発生したGMP(Good Manufacturing Practice) 違反による業務停止処分が出され、その後、全国的に医薬品の供給不足が発生し、現在でも医薬品の供給不足の問題は継続していて、患者さん、医療機関、薬局に多大な影響を与えている。

こうした状況の中で、今回秋田県の「ニ〇ロファーマ〇舘工場」で、以前と同じように、医薬品の製造にあたり厚生労働大臣から許可を得た製造承認書とは異なる方法で試験をしたり、製造の逸脱に対する薬事的対処を行わなかったり、虚偽の試験記録の作成を行ったりと、基本的には以前と同じような医薬品医療機器等法(以下薬機法)に違反する行為が行われており、業務改善命令が出されている(業務停止命令が出されなかったのは、社内の一部門が起こした問題で、組織的なものではない事から判断されたと言われている)。

 このような問題は、2016年に熊本県の「化〇研(今は存在しない)」が承認書と異なる方法で製剤を製造し、組織的に隠ぺいしていた事件があり、110日間の業務停止処分を受けている。これ対し、当時の厚生労働省は製薬メーカー各社に対し、承認書に従って医薬品を製造しているか自己点検を行うように指示し、多くのメーカーから手続き上の問題が見つかり対応を行うよう指示が出されてます。

 各製薬メーカーは、承認書からの逸脱を起こさない努力を行ってきたにもかかわらず、上記のように2021年以降に、後発医薬品企業、医薬品製造受託会社、医薬品製薬会社で下記のように、同じような薬機法の違反例が発覚し、業務停止処分及び業務改善命令を受けています。

 年  月日   会社名都道府県業務停止期間
20212月9日 化工福井県116日間
  3月3日日〇工富山県32日間
 3月26日岡〇化〇工業京都府12日間
 8月12日久〇製薬佐賀県 8日間
 9月14日北〇本製薬富山県28日間
 10月11日長〇堂製薬徳島県31日間
 11月12日松〇薬〇工業愛媛県65日間
 12月24日日〇製薬滋賀県75日間
20223月28日共〇薬品兵庫県33日間
 9月2日辰〇化学石川県(但し、業務改善命令)

 このような不祥事が生じる原因としては、非現実的な生産計画、人手不足、GMPの理解不足、製造所への監査不足、経営層の医薬品製造に対する意識の問題が挙げられ、その対策として厚生労働省は、無通告査察からGMP監査マニュアルの作成、GMP教育支援課の創設等GMPの知識や監査技術の底上げを図ると共に、経営層に対する意識改革等も進めている。

 しかしながら、薬機法違反を起こした企業の多くは、10数年前から同じような事を繰り返していたと証言しており、2016年の「化〇研」の事件が表に出て、それに対する承認書と実際の製造方法の齟齬を見直し、是正する機会が与えられたにもかかわらず、その絶好のチャンスを活用することなく、不正を意識的に続けざるを得なかったのは、長期間に形成された企業文化が新たな変化を受け入れなかったか、それを受け入れる経営状態(経営層からの圧力)になかったか、例えば毎年行われる薬価の改訂により、生き残るにはリスクを取って不正を続けるしかなかった等、別の要因があるのかもしれない。
 いずれにしろ、このような不祥事は氷山の一角ではないが、根本的な問題が解決されない限り、今後もまだまだ似たような事件は、起こり得ると考える。

                       医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

⑦ 医薬品の薬害で知っておくべき事。

                      医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

  薬害根絶の願いを込めた「誓いの碑」が厚生労働省前庭に建っているのはご存じでしょうか? この碑は、薬害エイズを発生させた国の責任を明らかにし、薬害の悲惨さを歴史にとどめて、「国は二度と悲惨な薬害を起こさないことを国民に対して誓ってほしい」との思いから、エイズの原告団と弁護団の要求により、1999年に建てられたものです。患者・遺族が受けた薬害被害を社会的な痛み、人類の教訓として、薬害根絶につなげてほしいという被害者としての願いが形となったものです。

「誓いの碑」

 20年以上経った今、この碑がある事を知っている方が、どの位いるかは分かりませんが、関係者以外は、あまり一般的になってないような気がします。
 そこで、今回は、国内で生じた薬害について、もう一度振り返って、同じような薬害が、再び起こらないように、このテーマを選びました。

 話の内容は以下の通りです。
1)過去に医薬品等が関係した主な薬害
2)主な薬害に関し、その内容、問題点、行政上の対応

 (1)サリドマイドによる先天奇形
 (2)キノホルムによるスモン
 (3)輸入濃縮血液製剤(血液凝固因子)によるエイズ
 (4)輸入濃縮血液製剤(フィブリノゲン)によるC型肝炎
 (5)ソリブジンとフルオロウラシル系抗がん剤の併用による骨髄抑制

それでは、順番に説明します。

1)過去に医薬品等が関係した主な薬害

  これまでに薬害と言われている事例について、下表に示しました。この中から、赤字で示した薬害の内容、問題点並びに行政が取った対応について、次に示します。

発現年度薬害の内容
1956年ペニシリンによるショック死
1960年サリドマイドによる先天奇形
1965年アンプル入り風邪薬によるショック死
1967年抗生物質による聴力障害
1968年クロラムフェニコールによる再生不良性貧血
1969年クロロキンによる網膜症
1970年キノホルムによるスモン
1973年筋肉注射による大腿四頭筋拘縮症
1985年輸入濃縮血液製剤(血液凝固因子)によるエイズ
1987年輸入濃縮血液製剤(フィブリノゲン)によるC型肝炎
1992年MMRワクチンによる無菌性髄膜症
1993年ソリブジンとフルオロウラシル系抗がん剤の併用による骨髄抑制
1997年ヒト乾燥硬膜によるプリオン感染(CJD事件)

戦後の薬害事件の概要と教訓 土 井 脩(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団)

2)主な薬害に関し、その内容、問題点、行政上の対応

(1)サリドマイドによる先天奇形
内容
 サリドマイドは1957年に西ドイツのグリュネンタール社から発売された睡眠・鎮静薬で、日本でも大日本製薬から睡眠薬として発売された。妊娠初期の女性が服用したところ、副作用として四肢に異常のある児(四肢の全部、あるいは一部が短い、また耳や内臓の障害も有す)が多く誕生した。1962年にサリドマイドによると判明し販売を中止した(被害者約1000人)。
問題点
  当時は医薬品の承認にあたって非臨床試験、臨床試験で適切なデータに基づいて有効性と安全性を評価する承認体制がなかった。
 日本の規制として、国内、外国の副作用情報を収集・評価し、適宜当局に報告するシステムがなかった。
 製薬企業が情報を得てから、販売中止迄の措置の遅れ、回収の不徹底等、安全性に関する認識の甘さ、対応の遅れがあった。
行政上の対応 
 医薬品の製造承認等の基本的方針が制定された(承認審査制度の見直し、催奇形性試験の実施、臨床試験の二重盲検試験の実施、ヒトにおける吸収・排泄データの取得等)。
 医薬品副作用報告制度が新設された。 

  尚、サリドマイド製剤については、その後、多発性骨髄腫に有効である事が判明し、医療関係者、患者さんからの要望もあって、2008年に厚生労働省は製造販売を承認しました。
 サリドマイドの承認に際しては、過去の催奇形性の薬害を踏まえ、安全管理の徹底が条件とされています。販売する製薬企業と厚労省とで纏めた「サリドマイド製剤安全管理手順」(TERMS)で、使用する医療関係者や患者さん等などに向け、製薬企業と緊密に連絡を取り合い、妊娠回避を徹底するなど、守るべき事項を定めています。
 厚労省では、この安全管理策を国の関与のもと、第三者機関による評価も踏まえて適正に運用することにしています。また、サリドマイド製剤は卸売販売業者の「管理品目」に該当しています。
 このような安全管理対策が機能して、サリドマイド製剤は現在も販売されています。 

(2)キノホルムによるスモン
内容
 キノホルムは、1900年にスイスのチバ社が外用の殺菌剤として開発し、その後アメーバ赤痢に対し、内服剤として使用された。さらに下痢止め、整腸剤として適応が拡大された。1930年代から重篤な神経障害が報告されたが、日本でも1953年から発売された。1966年頃からスモン(亜急性脊髄-視神経-抹消神経症:下肢等の激しい知覚・運動・歩行・視覚障害等、耐え難い苦痛をもたらす難治性の疾患)の発生が大量に報告され、発売が中止された(被害者11000人以上)。
問題点
 適応症が拡大される際、有効性・安全性のデータに基づいた審査体制が欠如していた。
 安全性に関する認識の甘さ(海外の市販後の副作用の報告を積極的に収集してなかった)、対応の遅れ、患者救済の遅れがあった。
行政上の対応
 1979年に薬事法が改正された(承認基準・提出資料の明確化、再審査・再評価制度の導入、副作用の収集・提供・報告の法制化、販売の一時停止・回収等の緊急措置命令の導入)。
 医薬品副作用救済制度が導入された。

(3)輸入濃縮血液製剤(血液凝固因子)によるエイズ
内容
 エイズ(後天性免疫不全症候群)はHIV(ヒト免疫不全ウイルス)によって引き起こされる病気で免疫不全状態に陥り、様々な感染症や悪性腫瘍等を引き起こす。血友病患者に使用されていた米国から大量輸入された非加熱血液製剤の中にHIVが含まれていたため、HIVに感染し、その後エイズを発症した(被害者1400人以上)。
問題点
 海外の情報、治験データが活用されてなかった。
 一部の専門家の意見により治験等の方向性が左右されていた。
 非加熱製剤の回収の遅れにより被害が拡大した。
行政上の対応 
 薬事法が改正された(海外措置報告の義務化、回収等の徹底強化、感染症に関する報告の義務化、感染症被害者救済制度の導入、製造販売責任の所在を明確化するため「製造販売業者」が新設、承認審査体制の強化として審査センターが新設された)。

(4)輸入濃縮血液製剤(フィブリノゲン)によるC型肝炎
内容 
 出産や手術の際に、止血剤として使用されていた非加熱の血液凝固因子の中に、C型肝炎ウイルスが含まれていたために、多くの人がウイルスに感染し、慢性肝炎や肝がん等を発症した(被害者約10000人)。
問題点
 海外の情報・治験データが活用されてなかった。
 生物由来製品の安全性情報の収集・当局報告が徹底されてなかった。
 製造承認の一変申請を行わずにウイルス不活性化処理方法を変更していた。
行政上の対応 
 エイズと同時に対応がなされた。

(5)ソリブジンとフルオロウラシル系抗がん剤の併用による骨髄抑制
内容
 1993年、日本商事が抗ウイルス剤(帯状疱疹治療剤)としてソリブジンの販売を開始した。発売後約1ヶ月で5-UF(フルオロウラシル系)抗がん剤との薬物相互作用で死亡者が出た(被害者15人)。
問題点
 抗がん剤との薬物相互作用に関し、前臨床、臨床、審査段階での検討が不十分であった。
 添付文書への相互作用情報の記載が不十分であった。
 企業から医療関係者への情報伝達が不十分であった。
 企業だけでは医療機関に「緊急に情報を伝達する」ことが困難であった。
行政上の対応
 薬事法が改正された(審査センターの新設、添付文書の記載方法の見直し)。
 市販直後調査制度が新設された。

  以上のように、これ迄発生した薬害については、現在の薬事行政から見ると、いずれも回避出来る内容と考えられる。つまり、これ迄「薬害」が生じると、それに対する行政上の対応として、新たな審査方法の確立、組織や制度の新設、海外のシステムの導入等を行い、現在の薬事行政が確立してきたことになる。もちろん、ICH等の議論を重ねることで、海外の薬事行政に追いつく努力はしているが、これ迄、多くの犠牲者を出すことで、今の日本の医薬品の薬事行政の対応が形づくられた部分がある事を忘れないようにしたい。少なくとも、冒頭で紹介した「誓いの碑」が建立された経緯は、誰もが知っておいてほしいと思います。

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⑥ 医薬品の開発、承認取得時の資料作成時に気を付けること

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今回は、医薬品の開発時、あるいは承認取得時に種々の資料を作成しますが、文章の中身や技術的な事は別にして、ここでは読み手の立場を考慮して、気を付けるとよいことに関し、以下の2点について、お話します。
(1) PMDAや厚生労働省の審査官も、ヒトであることを忘れてはいけない
(2) 一般的な文章の書き方と違って、例えば、申請資料などの文章では、特に気をつけたい点がある。

それでは、順番にご説明します。

(1) PMDAや厚生労働省の審査官も、ヒトであることを忘れてはいけない。

  新薬の開発においては、治験実施計画書、治験概要書、本治験を科学的に妥当と判断した理由書、患者さんへの説明文書、総括報告書、承認申請資料、添付文書、リスク管理計画書等、種々の書類を作成し、PMDAや厚生労働省の確認、審査を受けることになります。
 製薬企業の担当者からすると、これらの資料を作成するに当り、当局に提出する公の文章と位置付けて、文章の作成を行っています。つまりは、読み手というヒトの立場に立って文章作りをするよりは、どうしても、得られたデータを基に如何に新薬の承認を取得するかに主眼をおいて、文章を作成していくことになります。ここで問題は、読み手のことを考えて、読み易いかどうか、記載されていることは理解しやすいか、余計なことが長々と書かれてないか、ストーリーの流れは把握し易いか、会社の希望や要望が延々と書かれてないか、文章の長さは全体として適当か等が考えられているかどうかという事です。
 会社側の担当者は、当局に対して公文書としての承認申請書を記載している意識でいますが、実際には当局の中の担当官が提出された資料を読んで審査することになります。従って、上記の事例で挙げた部分が気になるような事があると、読み手もヒトですから、いくら我慢して読み込んで頂いたとしても、やはり途中で、読みたくなくなるのが自然な反応だと思います。もちろん、会社側の担当者としては、データがいまいちの場合、得られたデータのいい面を中心に記載して、十分お化粧をして、何とか承認を取りたい気持ちになりますが、お化粧しても、結局は何が事実か分かってしまいますので、その方針は無駄のように思います。
 従って、申請資料という公の文章と言えども、仕事だから何を書いても読んでもらえるだろうと考えるのではなく、読み手の立場を考えて、文章作りをするほうが、効率的、効果的ではないかと思います。

(2) 一般的な文章の書き方と違って、例えば申請資料等の文章では、特に気をつけたい点がある。

   PMDAや厚生労働省に提出する文章は、「一般的に言われている分かり易い文章の書き方」に重複する部分もあると思いますが、念のため、文章の作成時に気をつけたい点をいくつか取り上げたいと思います。

1) 結論の要旨を初めに記載する。
2) 各項目内で、これから、どの順番に説明するか、ストーリーを明示しておく。
3) 内容は科学的なデータに基づいたものに限り、希望的な見解や個人の意見は含めないことにする。4) 説明のストーリーの起承転結は簡潔にし、お化粧のための回り道はしないようにする。
5)文章は短めにして、出来るだけ箇条書きにする。
6)長々とした文章は、分かりずらいので、途中で文章を分割する。
7) 図表化出来るものは、分かり易くなるように工夫する。
8)データ等の引用がある時は、引用先がすぐわかるようにしておく。
9) 理解してほしい部分、重要な部分等は太字や下線を引く等、メリハリをつける。
10)略号等は、最初のページにある略号の一覧表に戻らなくてもわかるように、そのページ内に説明を加えておく。

 以上、文章の記載方法はそれぞれの会社に規定があると思われるし、また、一般の文章の記載留意事項と同じような内容もあるので、あくまで事例として挙げたものです。今回、話題にしたかった点は、読み手がヒトであるということは、体調がいい時も、体調がすぐれない時もあるし、気分が良い時も、気分がすぐれない時もある等、審査官も普通のヒトと同じように喜怒哀楽はあるはずです。従って、例えば申請資料の作成時の文章と言えども、読み手に少しでも、気分よく読めて、分かり易い文章にすることは、忘れてはならない配慮と考えます。

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⑤ 医薬品も市場から回収することがよくある

                     医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

医薬品は、通常ヒトの身体に投与して、病気を治療するものであるから、清潔な環境で、100%間違いのないものを製造して、患者さんに提供することが義務づけられているはずです。しかしながら、現実には、種々の理由により、その薬剤の安全性、有効性、品質が確保できない状況が生じ、市場から回収する場合が生じているのが現実です。

厚生労働省の通知によれば、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品(以下「医薬品・医療機器等」という。)に関し、何らかの不良又は不具合が生じた場合には、医薬品・医療機器等による保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため、これらの不良医薬品・医療機器等の自主的な回収を行うことになっています。また、回収に着手した旨及び回収の状況を厚生労働大臣へ報告しなければならないとされています。

回収に当たっては、不良医薬品・医療機器等の使用によりもたらされる健康への危険性の程度により、以下のようなクラス分類が定義されています。一般に、クラスⅡ以上が、回収の対象になると考えられています。

  分類 定義
   クラスⅠ                クラスⅠとは、その製品の使用等が、重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る状況をいう。
  クラスⅡクラスⅡとは、その製品の使用等が、一時的な若しくは医学的に治癒可能な健康被害の原因となる可能性がある状況又はその製品の使用等による重篤な健康被害のおそれはまず考えられない状況をいう。
  クラスⅢクラスⅢとは、その製品の使用等が、健康被害の原因となるとはまず考えられない状況をいう。

 さらには、医薬品・医療機器等の製造販売業者等が、医薬品・医療機器等の回収に着手した場合、速やかにインターネット掲載用資料を提出し、PMDAのサイトに載せる事になっています。提出する資料に記載する内容は、下記に内容となります。

 1.資料作成年月日
 2.医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品の別
 3.クラスⅠ・クラスⅡ・クラスⅢの別
 4.一般的名称及び販売名
 5.対象ロット、数量及び出荷時期
 6.製造販売業者等名称
 7.回収理由
 8.危惧される具体的な健康被害
 9.回収開始年月日
 10.効能・効果又は用途等
 11.その他
 12.担当者及び連絡先

 尚、医薬品・医療機器等の回収に関する詳しい内容は、厚生労働省から「医薬品・医療機器等の回収について」という通知が出ていますので、ご参照願います。

        (薬 食 発 1 1 2 1 第 1 0 号 平 成 26 年 11 月 21 日)

下記に、2020年から2022年における、医薬品の回収件数を載せています。2020年から2022年にかけて、クラスⅠの回収が増加している詳しい理由は調査していませんが、殆どは血液製剤の回収でした。ただ、2020年には、イトコナゾール(経口真菌剤のイトコナゾールに睡眠導入剤のリルマザホンが混入していた事件)、メトホルミン・メトグルコ(これらの糖尿病治療剤に、管理指標を超える発がん性物質「N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)」が含まれていた:報告は3社)もクラスⅠとしての回収対象になっていました。

 また、医療用医薬品に関するクラスⅡの主な回収原因としては、従来は異物の混入(金属片、ガラス片、虫、毛髪、黒色物等)、品質不具合(溶出試験等、各種規格試験の設定値からの逸脱、結晶析出、形状変化等)、表示ミス(添付文書の記載ミス、製造番号・ロット番号の未記載等)、その他(容器の不具合、シール非表示、添付文書の入れ違い等)等が報告され、回収が行われていました。

               医薬品の回収報告数(回収終了を含む)

クラス分類 2020年 2021年 2022年*
クラスⅠ 7 251 455
クラスⅡ 256 218 123
クラスⅢ 9 27 8
*2022年は12月23日迄のデータ

                PMDAの回収情報(医薬品)

 これらの回収事例は、各製薬会社の工場で、100%間違いないものを製造する目標をたて、法令に従い行ってきたものの、全体の製造量から比べれば、ほんの数%の発生率であることから、ヒトが関わる事により生じるケアレスミスによるものと予測していました。しかしながら、ここ数年の主に後発医薬品の一部の製薬会社における医薬品製造に関する不祥事が明るみに出て、10社近くが製造販売業ないしは製造業の業務停止が行われました。例えば、医薬品の承認許可証からの逸脱が日常的に行われていたり、医薬品製造基準(GMP省令)に従っていなかったり、規格試験等の試験結果を捏造して規格値に合格しているような不正等が長年に渡り、行われてきたことが判明しました。

 このような不祥事は、ヒトに係わるケアレスミスによるものではなく、意図的な悪意のある行為と考えられます。このような意図的な行為は、決して氷山の一角はなく、製薬業界全体にベースとして何らかの形であり得ると思われます。結果として、回収にあるような事象が発現し、善良な企業は回収を行い報告していますが、そうでない企業もないとは言えないように思われます。
 いずれにしろ、医薬品は、通常ヒトの身体に投与して、病気を治療するものであるから、清潔な環境で、100%間違いのないものを製造するのが、製薬企業の義務ある事をこれからも忘れないようにしてほしいと思います。

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④ ドラッグ・ラグの再燃 ?

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 ドラッグ・ラグとは、新規医薬品が欧米では既に承認され使用されているのに対し、日本では未承認、ないしは発売時期が遅れるという問題であるが、2010年前後に、この問題を解決するため、「新薬創出・適応外薬解消等促進加算の導入」、「医薬品の審査期間の短縮」や「国際共同治験での世界同時開発・同時申請」等を、厚労省、医療関係者、製薬企業が精力的に取り組んだ結果、大きく改善に向かっていった。

 しかしながら、最近の政策研の調査結果によると、新規医薬品の国内未承認の割合は2016年に56%であったものが、2020年には72%と年々増加してきており、ドラッグ・ラグの再燃を危惧する声が出始めている。

 その原因は、現在調査・分析中とのことだが、1つは海外の製薬企業から見て日本の薬価制度(新薬創出加算や市場拡大再算定等)を巡る環境が厳しくなっており、日本に投資するインセンティブが低下している事が挙げられている。次に考えられる事として、国立がん研究センターの調査によると、国内未承認のうち、かなりの部分を抗ガン剤が占めており、これは日本法人を持たない海外の新規のバイオ医薬品企業が抗ガン剤を開発していることが影響していると考察している。3つ目に考えられる事として、最近、国際共同治験から日本を外す動きが見られ始めているが、これは、日本の治験(参考)
は、他国と比べて患者さんの集積スピードが遅いこと(そのため、多くの参加施設、及びCRA[臨床開発モニター]等が必要になる)、その結果、患者さん一人当たりの治験費用の額が他国と比べてかなり高いこと、また日本では品質の面でも実施計画書からの逸脱が生じる率が高いことから、他国と比べて、コスト・パフォーマンスが低いことと先に述べた薬価制度の不合理性が相まっての動きと考えられる。

 以上のような事柄が、ドラッグ・ラグの再燃の要因として考えられるが、日本の薬価制度の問題は、医療費支出の抑制上厳しい状況にあるが、新薬開発のイノベーションは維持出来るような施策は組み入れてほしい。海外の新規バイオ医薬品企業は、最近活発に、日本のCRO(開発業務受託機関)に対して「国内管理人」の依頼が寄せられており、改善が期待できる。日本の治験のコスト・パフォーマンスが低いことは、以前から指摘されているが、治験中核病院、治験拠点医療機関の拡充、リスクベースドモニタリング(RBM)、中央モニタリング、リモートモニタリングの利用向上等により、治験の効率化が図られているが、それらの成果、精度を高めることで、コスト・パフォーマンスの向上を図り、海外企業の日本への投資離れを抑えることが出来れば、ドラッグ・ラグの再燃は避けられ得ると考えられる。政策研の調査分析と政府の対応に期待したい。

(参考)
日本の治験の場合、殆どの場合、治験参加医師は、外来、病棟診療、出先機関での診療、医局会、論文作成等に極めて忙しく、治験は、その合間に治験協力者の援助を受けて、わずかな時間で対応しているのが現状と考える(臨床第Ⅰ相試験の専門施設は除く)。また、治験を行う事への医師個人への報酬は基本的になく、あくまで新たな治療方法確立という社会的貢献のみがインセンティブになっている。一方海外では、治験だけを行う病院、施設があること、1つの病院で多くの患者が集められること、治験をビジネスとして、医師が報酬を受けられる場合も多いこと等、日本と海外では治験環境や参画意識に違いがみられる。

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③ 最近よく聞く「医薬品の限定出荷」の状況

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 「限定出荷」とは、医薬品の在庫偏在を防止するために、既存医療機関や薬局への医薬品の安定供給を優先し、新規採用は辞退するため、「特約店(卸)」に対して出荷数の割り当てを調整することで、医薬品の安定供給に支障が出るのを出来るだけ少なくする事である。

この対応の始まりは、元々は2020年12月に発覚した後発品企業のGMP違反(承認書の内容と異なった製造、品質試験の捏造、二重帳簿の作成等が長期間行われていた)により、業務停止を受けたことに端を発する。ここ1年位の間に、後発品企業を中心に、先発品企業においても、同じような医薬品の品質の問題に関して薬機法の違反が相次いで摘発され、10社程度の会社が業務停止を受けている(この問題は2022年9月2日にも石川県の後発品企業が承認書と異なる製造をしていたことが発覚して業務改善命令を受けており、問題はまだまだ解決していない。実際、厚労省は2022年度内にGMP監査のマニュアルを出す予定でいるし、PMDAでは。この4月から組織内にGMP教育支援課を作り都道府県の立ち入り調査を支援する事を現時点で行っている)。

 上記の結果として、他社における同一成分の医薬品の注文が集中し、特約店では、既存医療機関、薬局への医薬品の安定供給を優先し、新規採用は辞退する「限定出荷」を行う事になり、現在も続いている。この問題は、後発品企業を中心とした薬機法違反だけによるものではなく、コロナの発生によるサプライチェーン上の医薬品関連物質の供給低下も関連し、さらに、円安により海外からの医薬品原料や中間体の価格の高騰やウクライナ紛争による物価高に伴う製造コストの増大も影響していて、医薬品の安定供給の悪化状況は、改善しているとは言えない。また、限定出荷を解除すると、大量に注文する医療機関や薬局が出てくるので、簡単には解除出来ない状況に陥っている(今年1月に、これを回避するための通知は出ている)。

 この状況を乗り切るのは、未だ時間が掛かると思われるが、厚生労働省が設定した「安定確保医薬品」カテゴリA(最も優先して取り組む)21成分、カテゴリB(優先して取り組む)29成分、カテゴリC (安定確保)456成分のうち、さらに代替薬剤が少ない医薬品を優先させたり、後発品企業では、製造している製品のうち、かなりの部分で、薬価が低下して、不採算品目となっている医薬品があるので、早急に品目整理(終売、最低薬価の引上げ等)を進める事で対応する事が期待されている。

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② 医薬品等の緊急承認制度の施行

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 通常、医療用医薬品を開発するには、動物試験から始めて(特に安全性を慎重に確認し)、次いで、ヒトにおける第Ⅰ相試験(健常人の試験)、第Ⅱ相試験(用法・用量の設定)、第Ⅲ相試験(既存薬との比較)を行って、薬剤の有効性、安全性、品質を慎重に確認した上で、厚生労働省に申請し、1年位の審査期間を経て、初めて承認を得て、発売に至っています(これ迄は、通常、候補物質が見つかってから承認取得迄に10年間位は掛かると言われてきました)。
 ここ数年に渡る新型コロナウイルスの流行に伴い、コロナワクチン、並びにコロナ治療薬(経口剤等)の開発・承認を見ていると、候補品が見つかってから、実際にヒトに使用される迄の期間が、極めて短くなっています。これは、今回の新型コロナウイルスがパンディミック(感染症や伝染病が世界的に大流行する状態)であることから、緊急措置として、通常の手続きを簡略化し、パンディミックを抑え込むために、国内では「特例承認(緊急時に外国において販売等が認められている医薬品等に承認を与える制度)」を用い、ヒトに使用しているからです。パンディミックを乗り越えるためのリスク・ベネフィットを考えると、他に選択肢はなかったと考えられます。
 今般の新型コロナワクチンに対する米国の対応は、大規模な検証的臨床試験結果を踏まえ、使用可能な期間に制限を設けた「緊急使用許可制度(EUA : Emergency Use Authorization)」を用いて使用を開始し、後日承認審査を受ける制度を用いています。一方、国内の承認制度は、通常承認、条件付き承認(希少疾病用医薬品等の場合)、特例承認等がありますが、米国、EUのような緊急時の医薬品等の承認制度がなかったことから、令和4年5月2日に、薬機法の一部改正(緊急時の薬事承認制度)が行われました。
 改正の概要をみると、適用の対象(ワクチン、治療薬だけでなく、医薬品等全般)、発動の要件(従来の特例承認制度と同様)、運用の基準(安全性は従来と同等の水準で確認するが、有効性は入手可能な成績から、推定して承認可能。具体的には第Ⅱ相試験で有効性が示されれば、第Ⅲ相試験なしで承認可能)、承認の期限・条件(米国のEUAのように承認期限を設け、期限内に改めて有効性等を確認)、その他に市販後の安全対策、迅速化のための特例措置が設けられています。
 以上のように、国内における医薬品の緊急承認制度が法制化されたことにより、例えばコロナ感染者の後遺症の治療薬、あるいはパンディミックに未だ至らない新しいウイルス疾患が発症し始めた時は、定義から考えると緊急時の薬事承認の対象になるように思われる。しかしながら、緊急時の対応が整備されても、現在のように外国の医薬品等の開発、承認に依存する部分が多い環境下では、海外の状況に大きく影響を受け、今回施行される緊急時の対応が期待したものにならない事が想定されることから、国内における新しい医薬品の開発体制の整備がさらに強化されることが期待される。

(参考資料) 
・令和4年9月14日 医薬品の緊急承認制度 (厚生労働省のサイト)
 
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000989610.pdf

 

                      医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

① 後発医薬品企業等で発生したGMP違反発覚による業務停止処分!

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 過去2年位に渡って、10社近い後発医薬品企業等が、医薬品製造業の許可要件であるGMP(Good Manufacturing Practice)違反により、業務停止処分を受けている。内容は2020年12月に、ある企業で発覚した不祥事と同じようなもので、製造承認書と実際の製造方法が異なっていたとか、製造方法の変更の薬事手続きを行っていなかったとか、製造記録の改竄や捏造といったものである。その原因も、以前と同様、非現実的な生産計画、人手の不足、GMPの理解不足、及び製造工場への監査不足と、同じような内容であった。
 ここ数年で10社近くが続けて行政の摘発を受けているが、これらは氷山の一角という訳ではなく、一部の会社の企業風土(経営者の意識)に起因して、後発医薬品に対する国民の信頼を根底から失う結果をもたらしたと考える。つまり多くの後発品企業では、このような法律違反は起こしていないと信じている。
 そもそも、日本の高齢化に伴い膨大に膨れ上がった医療費を抑制する対策として、政府主導で、先発品から、薬価が安い後発医薬品へ、短い期間で80%以上への切替えを進めてきた。あまり話題にならないが、この数値ありきの一方的な目標の弊害として、一部の後発医薬品企業では、それに対応できず、従前の製造方法のやり方を変えられずに、一連のGMP違反を起こす事に繋がったとも考えられる。もちろん、今回のような不祥事を起こした企業を擁護するつもりはなく、結果として医薬品の安定供給の確保が行えずに、患者さん、医療機関等に多大な影響を与えたことは、許されるものではない。
 このような不祥事に対し、厚生労働省はGMP監査のテコ入れを図るため、監視指導課が厚生省研究班に製造販売会社が製造所の監査を行う際のマニュアル作成を依頼し、2022年度内に案を纏める事にしている。またPMDAは、今年4月に「GMP教育支援課」を新設し、都道府県による立ち入り調査の質を確保するため、教育の支援を行っている。さらに、大学においても、今年から東京理科大学、熊本保健科学大学、富山大学にGMPの人材育成の目的で、GMPの教育・研究を行う講座を新設し、学生だけでなく、企業や都道府県のGMP担当者の知識・技術レベルの向上を目指す活動が始まっており、その成果が期待されている。
 膨大な医療費の抑制を実現するには、政府が強力なリーダーシップを取って舵取りをしなければならないが、GMPを遵守して医薬品の製造を行うには、GMPを実現化する人員・人材の確保(簡単には人は育たない)や構造・設備等への資源の投資も見据えながら、薬価の安い後発医薬品へ切替える施策を進める必要があったことも、医療費抑制策の実現化における反省材料にすべきと考える。また、GMP関係者の知識や技術のレベルが向上したとしても、製薬会社の経営層による医薬品製造に対する「意識改革」が実際に実現化しなければ、直面している問題から抜け出すのは、かなり厳しいと考える。

 

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