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10)医薬品開発に必要な「薬価について」を知る!

                    医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

一通り「お薬」の開発について、教えて頂きましたが今日はどのようなお話になりますか?

「お薬」の価格である「薬価について」は、第6回目の「承認申請」で少し話をしましたが、もう少し説明を加えたいと思ってます。

 第10回目のテーマである「薬価について」として、今回は「医薬品の薬価制度」について、3つの項目に分けてお話したいと思います。

  (1)新医薬品の薬価の取得
  (2)既収載医薬品の薬価の改訂(基本的な調整)
  (3)既収載医薬品の薬価の改訂(補足的な調整)

 それでは、最初の話である「新医薬品の薬価の取得」については、3つのステップに分けて説明します。

   1)新医薬品の薬価算定プロセス
   2)新医薬品の薬価算定方式
   3)外国平均価格調整

(1)新医薬品の薬価の取得

1)新医薬品の薬価算定プロセス
第6回目のテーマでお話しましたように、医療用医薬品の価格は「薬価」と言います。薬価は、国の医療保険制度から、医療機関や保険薬局に支払らわれる時の「お薬」の価格のことで、製薬企業の資料等をもとに厚生労働省が決める「公定価格」になっています。つまり、製薬企業が勝手に薬価を決めることは出来ません。
・「お薬」としての承認が取れると、次に、製薬企業は薬価取得のために、薬価算定に関する資料(新しいお薬の有効性、安全性の特徴、リスクベネフィット、年間の患者さんの数、売り上げ予測等の必要な情報)を作成して、厚生労働省の「経済課」に「薬価収載希望書」を提出します。
・この資料は、外部専門家を含む「薬価算定組織」において協議され、薬価が2月、5月、8月、11月のいずれかの近い時期に決定されます(原則申請してから60日以内、遅くとも90日以内に薬価が決められます)。 
・薬価が収載されたら、製薬企業は「原則3ヶ月以内」に、新薬の製造販売を行い、それを安定供給させる義務が生じます。

 2) 新医薬品の薬価算定方式
・次に実際の「新医薬品の薬価算定方式」ですが、類似した「お薬」のあるものは、「類似薬効比較方式」によって、類似した「お薬」がないものは「原価計算方式」のいずれかの方式で行われます。

     平成28年11月30日 厚生労働省保険局医療課
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000144409.pdf

・「類似薬効比較方式」では、先ず「臨床第Ⅲ相試験」を実施した時に、「比較薬」に用いた薬剤が、例えば、1錠50円の薬価で、1回1錠1日3回投与なら、1日薬価は150円になります。一方、新しい「お薬」が1回1錠1日2回投与なら、1日薬価を「比較薬」と同じ価格である150円 とし、新しい「お薬」の1錠の薬価を75円と暫定的に算定します。
・次に、臨床試験の結果をもとにして、新薬が比較薬に比べて高い有用性、あるいは画期性が認められる場合には、その内容に応じた「補正加算(+α 分)」が付加されます。尚、類似した「お薬」のあるものでも、新規性に乏しい薬剤は、この「補正加算」はつきません。
・2つ目の方式として、類似した「お薬」がない新薬の場合には、「原価計算方式」で薬価を算定することになりますが、この場合には、その新しい「お薬」に関係する開発費、原材料費、製造原価、発売後の販促費用、人件費等を全て積み上げて暫定的な薬価を算定します。これに「補正加算」が加わる場合があります。
・尚、補正加算に関しては、令和4年の薬価基準改正で、見直しがされています。

3)外国平均価格調整
・最後に、「類似薬効比較方式」、「原価計算方式」ともに、「外国平均価格調整」として、「アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの4ヵ国」の薬価の平均値を出して、最終的な調整を行い、日本における「最初の薬価」が決定されます。

(2) 既収載医薬品の薬価改定 (基本的な調整)  

・薬価が決まって、既に発売されている医薬品、つまり薬価既収載医薬品の「薬価の改定方法」について説明しますが、初めに、薬価に対して、製薬企業、卸売販売業、医療機関・保険薬局の関係について確認しておきたいと思います。
・下図にように、製薬企業(メーカー)が卸売販売業に売る価格を「仕切価」、卸売販売業が医療機・保険薬局に卸す価格を「納入価」と呼んでいますが、医療機関・保険薬局は出来るだけ大きな薬価差(薬価/公定価格と納入価の差)の出る「納入価」を求めてきますし、製薬会社は薬価を下げないために出来るだけ高い「仕切価」を維持しようとします。
・ちなみに、製薬業者は医療機関・保険薬局と直接医薬品の価格の交渉は行わず、卸売販売業者が医療機関・保険薬局との価格の交渉を行います。実際には、卸売販売業のMS(マーケティング・スペシャリストという営業マン)」が、各医療機関・保険薬局との直接・個別の交渉を行って、「納入価」が決められています(従って、交渉次第で、同じ医薬品でも、医療機関・保険薬局毎に、薬価差の分配結果により、納入価は異なってきます。)

      厚生労働省:令和4年度薬価基準改定の概要
      https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000942947.pdf

・こういった価格の実態(公定価格でありながら、市場では利益を得るため公定価格より低い価格で取引されている)を把握するため、厚生労働省は、医療機関・保険薬局及び卸売販売業者に対し、実際いくらで売り買いされているか「市場実勢価格」の調査(「薬価調査」)を毎年実施し、その結果を基に、適正な薬価を設定するために、毎年薬価改定を行っています。
・「薬価調査」の対象は、卸売販売業者は約6000件全て、病院は全数の10分の1、診療所は全数の100分の1、保険薬局は、全数の30分の1に対して行われています。
・薬価改定時の基本的な方式は、薬価調査の結果から、一つ一つの品目毎に、「市場実勢価格の加重平均」(いわば全体での平均値)+消費税を求め、これに2%の調整幅(その医薬品の流通を安定させるための費用と言われている)を加えて、その年の改訂薬価とします。
・加重平均の意味は、1種類の医薬品について、例えば、下表で示すように、卸売販売業者(ここで は事例として3社のみとした)における販売額の合計値(12000円)を、卸売販売業者における販売錠数(230錠)で割った値 52.2円が 「加重平均」になります。このような計算を、対象となる卸売販売業者、医療機関・保険薬局の全てのデータから、1医薬品ごとに市場実勢価格の加重平均を求めることになります。

      平成28年11月30日 厚生労働省保険局医療課
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000144409.pdf

・上記の図に示すように、ある年のある医薬品の1錠の改訂前の薬価が100円とした場合、その年に実施された「市場実勢価格」の調査(「薬価調査」)から算出された「加重平均値」に消費税を加えた額(90円)に、2%の調整幅を加えて、翌年の改訂薬価(92円)が決まることになります。
・薬価が下がれば、医療機関・保険薬局は利益を得るため、もっと低い「納入価」を卸売販売業に求めてきますので、薬価は結果的にどんどん下がっていくことになります。

(3)既収載医薬品の薬価の改訂(補足的な調整)

既収載医薬品薬価の改訂の内、補足的な調整については、要点のみ説明します。
1)市場拡大再算定
・年間の販売額が予想よりも大きい時は、薬価の再算定により引き下げが行われます。
2)効能変化再算定 
・効能・効果が追加されて、年間の販売額が大きくなった場合には、薬価の再算定により引き下げが行われます。
3)長期収載品の薬価の見直し 
・長期収載品の後発品への置き換えが進んでない場合、特例的な引き下げが行われます。
4) 新薬創出・適応外薬解消等促進加算
・要件を満たす場合、一定期間新薬の薬価引下げが猶予されますが、その費用を、未承認薬、適用外薬、あるいは画期的新薬の開発に充てることが条件となります。 
5)費用対効果評価制度
・対象品目が比較品目と比較して、1年健康に寿命を延ばすために、必要な費用を算出して、評価結果に応じて、対象品目の薬価を調整する制度があります。

【今回の話の纏め】

  医薬品の薬価の算定方法には2つあり、「類似薬効比較方式」では、類似した比較薬と臨床第Ⅲ相試験を実施し、比較薬と同じ1日薬価が、先ず算定されます。類似した比較薬がない場合には、「原価計算方式」により、1日薬価を算出します。いずれも、試験成績により、補正加算が加わる場合があり、さらに海外の薬価(米、英、独、仏の4ヵ国)の平均額を参照して、最初の薬価が決定されます。
既承認医薬品の薬価の改訂では、基本的調整として、「薬価調査」の結果から、品目毎に市場実勢価格の加重平均を求め、消費税、調整幅(2%)を加えて、新薬価とします。その他、既収載医薬品の薬価改定の補足的な調整として、市場拡大再算定、効能変化再算定、長期収載品の薬価の見直し、新薬創出・適応外薬解消等促進加算等の制度があり、毎年薬価の改正が行われています。

                      医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

9)医薬品開発に必要な「後発医薬品」を知る!

                      医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

今回は「後発医薬品」の話ですが、普通の「お薬」とどこが違うのでしょうか?

この後、詳しくお話しますが、「後発医薬品」とは、基本的には普通の「お薬」(ここでは、先発医薬品と呼びます。)と同じ有効性と安全性を持ったもので、価格が5割位安い医薬品のことです。

 第9回目では、「後発医薬品」に関して、次の6つの項目に分けて話をしたいと思います。

    (1)後発医薬品の概略
    (2)先発医薬品と後発医薬品の有効性と安全性
    (3)後発医薬品が安価な理由
    (4)先発医薬品と後発医薬品の相違点の有無
    (5)先発医薬品の原薬は海外の粗悪なものを使用している可能性
    (6)後発医薬品の必要性

  それでは、初めに「後発医薬品の概略」について、説明します。

     厚生労働省ホームぺージ : 後発医薬品の使用促進について 
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kouhatu-   iyaku/index.html

(1)後発医薬品の概略

・「医療用医薬品」には、新しく開発・販売される「先発医薬品(新薬)」と、先発医薬品の特許が切れた後に先発医薬品と同じ有効成分を同量含み、他の医薬品企業により製造・販売される「後発医薬品」があり、「ジェネリック医薬品」とも言われています。
・先発医薬品を開発した製薬企業では、新薬を9~17年もの歳月と、数100億円以上の費用をかけて開発しているので、開発した製薬会社は、特許の出願によりその期間(20~25年)、その「お薬」を独占的に製造・販売する権利が与えられます。しかし、特許期間が過ぎると、その権利は国民の共有財産となるため、他の製薬会社から同じ有効成分を使った「お薬」が製造・販売できるようになります。それが、「後発医薬品(ジェネリック医薬品)」です(特許期間中は、後発医薬品を承認申請することは出来ません)。    
・後発医薬品の場合、既に有効性や安全性については、先発医薬品で確認されていることから開発期間やコストが大幅に抑えられ、結果として薬の値段も先発医薬品と比べて5割程度、中にはそれ以上安く設定することができます。     
・後発医薬品は欧米では広く普及しており、その数量シェアは、アメリカでは90%以上、ヨーロッパ でも60~80%となっています。日本における数量シェアも、令和元年(2019年)9月時点で、約77%迄普及しています。この数量シェアを80%にすることを目標に、後発医薬品の普及を都道府県、医薬品企業、保険者等が進めた結果、現在、国全体での数量シェアはほぼ80%に達しています。

(2)先発医薬品と後発医薬品の有効性と安全性

          
・「安くて本当に効き目はあるのか」、「安全性は大丈夫なのか」と心配する方もいるかもしれませんが、後発医薬品の開発にあたっては、医薬品企業において様々な試験a)が行われており、それによって先発医薬品と有効性や安全性が同等であることが証明されたものだけが、厚生労働省大臣によって承認されます。      
・先発医薬品は特許期間中に多くの患者さんに使用され、その有効性と安全性が十分に確認されています。後発医薬品は先発医薬品と有効性・安全性が同等であることが、下記に記載した「生物学的同等性試験」により確認されています。

a) 規格試験:有効成分の純度や量等の品質を確認する試験
溶出試験:先発医薬品と同様に体内で溶けるかを確認する試験
定性試験:品質が温度や光に影響されずに、長期に保存しても変化がないかを確認する試験
生物学的同等性試験 :先発医薬品と同じ速度かつ同量の有効成分が体内に吸収されるかを確認する試験。

(3)後発品が安価な理由 

・先発医薬品の開発に要する費用が1品目 数100億円以上掛かるのに対し、後発医薬品の開発の場合には、先発医薬品程多くの試験項目の実施は必要ないことから、後発医薬品の開発の場合には、1 品目 1 億円程度とされています。また先発医薬品の使用経験により、有効性や安全性に関する評価が確立しているので、後発医薬品では情報提供に関する販売管理費も少なくなることから、低価格での提供が可能になっています。

(4) 先発医薬品と後発医薬品の相違点の有無 

・後発医薬品は先発医薬品と同じ有効成分(原薬)を同じ量含有し、有効性も安全性も同等な「お薬」ですが、後発医薬品は、先発医薬品とは異なる「添加剤 b)」を使用する場合があります。
・患者さんの体質によって、添加剤が原因でアレルギー反応等の副作用を引き起こすことはまれにありますが、これは先発医薬品であっても後発医薬品であっても、同様に起こり得る事です。このような場合は、医師や薬剤師に相談してください。

b) 添加剤(安定化剤、賦形剤、コーティング剤、結合剤、保存剤、崩壊剤等)は、「お薬」の成分(原薬)から製剤化する時に、効果(薬理作用)を持った成分に加え、それぞれの製剤を作成する際に必要となる効果(薬理作用)を持たない成分(添加剤)を追加して、製剤としての形状・形態に加工するために使用するものです。

(5) 先発医薬品の原薬は海外の粗悪なものを使用している可能性 

・当局の原薬の純度に関する審査に際しては、ICHの合意に基づく、「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドライン」を、後発医薬品に関しても、そのまま適用しています。従って、有効性及び安全性において、先発医薬品と異なる影響を与えるような純度の低い粗悪な原薬による製剤が後発医薬品として承認されることはあり得ません。


(6) 後発医薬品の必要性 

・今、国民医療費が年に約1兆円も増加していて、国民皆保険制度の維持のための負担が増加しています。後発医薬品は、低価格で新薬と同等の治療効果が得られる「お薬」です。自己負担の軽減だけではなく、将来の世代にその負担を先送りしないためにも患者さん一人ひとりができることとして後発医薬品の使用が求められています。

厚生労働省 : ジェネリック医薬品への疑問に答えます。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000078998_3.pdf

【今回の話の纏め】

 「後発医薬品(ジェネリック医薬品)」は、先発医薬品(新薬)の特許が切れた後に製造・販売される、「先発医薬品と同じ有効成分を同量含んでおり、先発医薬品と同等の効き目がある」と認められた医薬品です。先発医薬品に比べて薬の値段が5割程度、中にはそれ以上安くなるものもあるため、一人ひとりの自己負担や国民医療費の抑制にもつながります。後発医薬品の使用を希望する場合には、病院、診療所、保険薬局で医師や薬剤師と相談してください。

                     医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

8)医薬品開発に必要な「医薬品製造」を知る!

                      医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

今回のテーマは「医薬品製造」という事ですが、どの辺が一番ポイントになりますか?

第3回目の非(前)臨床試験のお話をした時に、「医薬品等の製造管理及び品質管理の基準」として、GMP (Good Manufacturing Practice)というルールがある事を少し話しましたが、これをしっかり守って医薬品を製造する事が一番重要です。

   GMP適合性調査業務(PMDAのサイトより)
   https://www.pmda.go.jp/review-services/gmp-qms-gctp/gmp/0001.html

 第8回目のテーマとしては、最初にGMPのルールについてお話しし、その後、医薬品が工場で製造される全般的な流れについて、説明したいと思います。

 先ずは、GMP (Good Manufacturing Practice) についてですが、その定義と3原則のお話をします。

(1)GMPの定義

・GMPとは、「医薬品等の製造管理及び品質管理に関する基準」で、品質の良い優れた医薬品を製造するための指針を纏めたものです。医薬品は、患者さん、一般の方々の健康・生命に直接関わるものですから、その品質はきわめて重要で、不良品を患者さんが使用するようなことは、絶対にあってはならない事です。
・そこで守るべきルールとして、GMPと呼ばれる医薬品等の製造所における製造管理、品質管理の共通基準が省令として制定されました。GMPは原材料の入荷から製造、最終製品の市場への出荷にいたるすべての過程において、製品が安全に作られ「一定の品質」が保たれるよう定められており、この基準に適合しなければ医薬品を製造販売することは許されません。

(2)GMPの3原則について

・GMPの3原則とは、誰が作業しても、いつ作業しても、どこで作業しても、必ず同じ品質・高い品質の製品をつくるために実施すべき事を規定したものです。そのためには、以下の3原則を達成する必要があります。

    1)人為的な誤りを最小限にする。
    2)医薬品の汚染及び品質低下を防止する。
    3)高い品質を保証するシステムを設計する。

・また、GMPの3原則を達成するためには、ソフト面(管理面に関すること)とハード面(工場の構造・設備に関すること)の対応が必要になります。
-ソフト面としては、ルールを決めて、そのルールを書類に残す。そのルールに従って作業を行い、それを記録に残して証拠にする。そのルールを定期的に見直して、作業内容を改善する。
-ハード面としては、間違いを防ぐことが出来る構造・設備の工場である。衛生的な構造・設備である。高い品質を確保できる構造・設備の工場である。

 次に、GMPの3原則について、少し詳しく説明します。
1)人為的な誤りを最小限にする。
・人為的な誤りを最小限にするために、次のような事例が挙げられます。
(ⅰ)ソフト面
 - 各部門に責任者を設け、責任体制を明確化させる。
 - 標準的な規格及び作業手順を文書で指定しその通り実施する。
 - 重要な工程は、複数のチェック(ダブルチェック)ができる体制をとる。
 - 医薬品の品名、ロットNoなどの識別表示を実施する。
 - 作業したことの記録をとる。
 - 職員へ作業に関する教育訓練を実施する。
(ⅱ)ハード面
 - 作業に支障のない広さ、レイアウトに配慮する。
 - 混同防止のため、各作業室を物理的に隔離する。

2)医薬品の汚染及び品質低下を防止する。
・医薬品の汚染及び品質低下を防止するために、次のような事例が挙げられます。
(ⅰ)ソフト面
 - 作業室の清掃、設備の洗浄などの衛生管理を予め設定した手順に従って実施する。
 - 職員に対する衛生教育を徹底する。
 - 職員の衛生管理状態を管理する。
 - 作業室への関係者以外の立ち入りを制限する。
(ⅱ) ハード面
 - ちり、粉塵等によって汚染された空気による医薬品への汚染を防ぐための構造・設備とする。
 - 各作業室を専用化する。
 - 医薬品を変化させない製造・設備の材質を選定する。
 - 清掃しやすいものにする。

3)高い品質を保証するシステムを設計する。
・高い品質を保証するシステムを設計するために、次のような事例が挙げられます。
(ⅰ)ソフト面
 - 品質部門(品質保証部と品質管理部)と製造部門を分離させる。
 - 設備、機械器具などの定期的点検・校正のシステムを構築する。
 - 各工程がバリデート(検証)されている。
 - ロットの追跡が最後まで行えるように、作業を実施し、記録を整備する。
 - 生産計画に基づき、計画的、合理的に試験、検査を実施する。
(ⅱ) ハード面
 - 作業室、機械、設備が、製造工程の順序に従って、合理的に配置されている。
 - 必要な試験が適切にできる試験設備を備えている。

・このようにGMPの3原則を満たすために遵守すべき事項について、ソフト面(管理面に関すること)、ハード面(構造・設備に関すること)から規定されています。 また、ここに示したGMPは、決して固定されたものではなく、科学技術の進歩を取り入れ、より良い品質を目指してGMPの内容を高めていくこともまた、医薬品製造に係わる作業者の使命でもあります。

  次に、新薬を製造するには、GMPの規定の下で、新薬の成分(原料)や資材の入荷・保管から、「お薬」の製造、試験、最終製品の市場への出荷に至る多くの作業が行われています。

 ここでは医薬品の製造方法について、4つのステップを説明したいと思います。

     (1) 原料・資材の入荷及び製品等の保管について
     (2) 製造工程について
     (3) 試験工程について
     (4) 製品の市場への出荷可否判定について

それでは、これら4つについて、順番に説明したいと思います。

(1)原料・資材の入荷及び製品等の保管について

1) 原料、資材の入荷 
・原料や資材が入荷されたら、初めに原料や資材の内容に応じて必要な受入れ試験を行います。ここで不適になったら、返品や廃棄などの処分を行うことになります。
2) 置き場所を区別する。
・場所の区別とは、原料、中間体、製品の入荷後の置き場所を混同しないように区別し、誰が見てもわかるようにする必要があります。また、同様に原料、資材、製品の保管場所もそれぞれ区別します。
3) 工場内の温度湿度の管理を行う。
・室温、低温で保存しなくてはならない原料や製品については、指定された条件で保管をします。温度が逸脱したら、品質を保証出来なくなるので対策が必要になります。
4) 原料、資材、製品等の整理整頓を行う。
・原料、資材、製品等の先入れ先出しが容易に行えるように、整理整頓を行います。
5) 作業室、保管場所等を清潔にする。
・ゴミや埃がたまっている環境は清潔とはいえません。そうした場所には虫が発生することがあります。作業室や保管場所を清潔な環境にすることは、何よりも重要なポイントになります。
6) 保管・出納の記録を取る。
・原料や資材、製品の保管や出納に関しては、記録に残します。

(2) 製造工程について

1) 工場内の設備の清掃・保守・洗浄を行う。
・製造が行われる場所については、清潔な環境を保つことが基本で、ほこりや異物が発生・混入しないよう、最大限の配慮をする必要があります。また、清掃、洗浄の頻度を、あらかじめ手順書で決めておき、実際に手順書通りに行った内容を記録に残します。
2) 作業ルールを守る。
・製造作業を行うときの大原則は、製造指図書(指示書のようなもの)・手順書・作業ルールに従って作業を行い、実際に行った作業内容を記録する必要があります。
3) 作業室への入室時には、衛生を保つ。
・一番の汚染源は 「ヒト」 ですから、作業室へ入る時には、手洗いを行ったり、装飾品を外したり、頭髪は帽子の中に完全に入れる等、ルールを細かく決める必要があります。これらも異物混入・汚染防止という点から重要な項目になります。また、作業員の健康状態を把握して、熱があったり咳が出ていたりする人は作業に従事させない事が重要です。
4) 製造指図書通りに作業を行う。
・製造にあたっては製造指図書の内容と、製造する製品や資材の名称・ロット番号・数量などが合っているかを確認し、製造指図書通りに作業を行い、実際行った作業内容を必ず正確に記録に残します。
5) 作業の確認のためダブルチェックを行う。
・原料の秤量、ラベル表示の確認等の作業時には、作業者2人がペアーを組んで、ダブルチェックを行って、ミスを防ぐようにします。
6) 品質部門へ報告する。
・製造作業が終了したら、製造作業の結果を品質部門へ報告します。

(3) 試験工程について

1) 製造した医薬品について試験検査を行う。
・製造した製品からサンプルを採取し、厚生労働省が承認した「製造承認書」に決められた規格を満足させるものかどうか試験検査を行って確認をします。試験をした後には、結果を試験記録に記載すると共に、生データも証拠として残すことにします。試験検査の判定についても、予め承認書で定めてある判定基準に基づいて正しく判定する必要があります。
2) 測定機器の点検や校正を定期的に行う。
・試験検査に関する設備や器具については、正しい結果を得るために、日常点検や日常確認を定期的に行う必要があります。また、測定器が正しい計測データを示すように、定期的に校正(精度の調整)を実施します。
3) 試薬や標準品の管理を確実に行う。
・正しい結果が得られるように、試薬や標準品の管理や保管を確実に行います。
4) 参考品を保管する。
・流通した製品については、確認のため試験検査が行えるように、試験検査が2回以上できる量を、定められた期間、参考品として保管します。

(4) 製品の市場への出荷可否判定について

・製造工程、試験工程を終えたら、製品の市場への出荷可否の判定を行います。 製造部門で作成した記録や、品質部門での記録等を総合的に判断して、製品の出荷可否の判定を行います。

【今回のお話の纏め】

 「お薬」の製造を製造所(工場)で行うには、原料、資材の入荷から始まって、製造工程、試験工程、ラベル張り、梱包(箱詰め)、保管、市場への製品の出荷に至る全ての工程に対して、GMP省令(医薬品等の製造管理及び品質管理の基準)に基づいて作業を行わなければ、薬機法の違反となり、製品を販売することは出来ません。「お薬」は人の身体に作用をもたらすものである事から、製造された製品の品質が、常に確実なものでなければ、ヒトに対して不都合な作用を引き起こすことも考えられます。そのため、GMPでは、誰が作業しても、いつ作業しても、どこで作業しても、必ず同じ品質・高い品質の「お薬」が作れるようにするために、「お薬」を作る方法をルール化して、文書化し、製造時には常にその文書通りに実施し、作業を行なった内容を全て記録に残して、万が一基準から外れた場合には、その記録を見直してどこにミスがあったのか、どこが問題だったのか等を見直し、同じ間違いが2度と起こらないように、製造をする作業者に周知し、教育・指導して、常に同じ品質の「お薬」が製造できるようなシステムを構築しています。

                      医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

7)医薬品開発に必要な「製造販売後調査」を知る!

                    医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

厚生労働省の承認が得られたのに、発売後も「製造販売調査」を行うのは、何故ですか?

発売後にも、実際の臨床の現場で、新しい「お薬」を使用した場合の有効性や安全性のデータを引き続き収集して、より適切な使用方法を確立するのが目的です。

  第7回目のテーマとしては、「製造販売後調査・試験」について、次の4項目を中心に説明したいと思います。
(1)製造販売後調査・試験
(2)製造販売後調査と製造販売後安全管理業務の関係
(3)再審査期間
(4)再審査

それでは順番に、説明したいと思います。

                                                            (1)製造販売後調査・試験

・平成25年3月11日にGPSPa)、GVPb)省令の改正が行われる以前には、GPSPでは、以下の3つの調査、ないしは試験を行っていました。
(ⅰ) 使用成績調査
・医薬品を使用する患者さんの条件を定めることなく行う調査。
(ⅱ) 特定使用成績調
・小児、高齢者、妊産婦、腎機能障害又は肝機能障害を有する患者さん、医薬品を長期に使用する患者さん、その他医薬品を使用する患者さんの条件を定めて行う調査。
(ⅲ)製造販売後臨床試験
・治験、使用成績調査、もしくは製造販売後データベース調査の成績に関する検討を行った結果、得られた推定等を検証し、または診療においては得られない品質、有効性及び安全性に関する情報を収集するために行う試験。

a) GPSP (製造販売後の調査と試験の実施の基準に関する省令 : Good Post-marketing Study Practice)
b) GVP (医薬品等の製造販売後安全管理の基準に関する省令:Good Vigilance Practice)

(2)製造販売後調査と製造販売後安全管理業務の関係

・平成25年3月11日にGPSP、GVP省令の改正が行われていますが、この改正では、従来のGVP省令に RMPc)の規定・手順を加えたこと、また、総括製造販売責任者、安全管理責任者とGPSPの製造販売後調査等管理責任者との間で相互の密接な連携を取ることになりました。

c) RMP(医薬品リスク管理計画 : Risk Management Plan)

・RMPは、新薬候補品毎に、重要な副作用(安全性検討事項)、市販後に実施される情報収集活動(医薬品安全性監視活動)、医療関係者への情報提供等の新薬候補品使用時のリスクを減らすための取り組みを纏めた資料で、承認申請時に案としてPMDAに提出したものを、実臨床の場で実施されるものです。目的としては、先ず開発時に臨床試験等から得られた成績から、新薬を患者さんに投与した時の注目すべき「安全性検討事項」、「安全性監視計画」、「リスク最小化計画」を策定します。次に、その対策が妥当なものであるかを、GPSPから報告される調査成績、並びに GVP により収集される安全性(副作用報告)に関する調査成績から、常に確認し、最初に設定した計画との齟齬が見られれば随時修正を加えて、患者さんの安全性の確保と適切な使用方法の確立に向けた活動が行える体制にするためのものです。

     PMDAサイト:医薬品の製造販売後調査の現状と留意点
     https://www.pmda.go.jp/files/000161616.pdf


(3)再審査期間

・再審査期間とは、特許期間のようなもので、通常の新薬で承認取得後8年間、新たな適応症の追加、新しい投与剤型(カプセル剤を錠剤にする等)の追加等では内容に応じて4年から6年、希少疾病用治療薬(国内の患者さんの数が5万人未満で、他に有効な治療薬がない疾患に使用するもの)や小児の適応症を取得した場合には10年の再審査期間が設定されます。再審査期間中は、いわゆる後発医薬品は申請できない事になっています。

(4)再審査

・医薬品の製造販売業者は再審査期間中に得られた、GPSP、GVP、GCP、外国の臨床データ等における、新医薬品の有効性及び安全性等の成績を集計・解析し、申請資料として纏める必要があります。提出時期は、再審査期間の満了から3か月以内に、厚生労働省大臣(PMDAを介する)に申請する必要があります。
・再審査の結果として「発売中止」、「一部適応症の削除」、「用法・用量の変更」、添付文書上の「警告、使用上の注意等の変更」等が行われることがあり得ます。

【今回の話の纏め】 

 今回は、承認取得後の医薬品製造販売会社の業務として、製造販売後調査・試験の内容について、また、RMP(医薬品リスク管理計画)の導入に伴い、平成25年にGPSP省令、GVP省令の改正が行われ、GPSPの仕事内容は変わらないものの、総括製造販売責任者や安全管理責任者との連携が強化され、RMPの実現化、並びに新規医薬品の患者さんに対する更なる安全性の確保、並びに適切な使用方法の確立に向けた対策が取られています。

                      医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

6)医薬品開発に必要な「承認申請」を知る!

                      医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

こんにちは! 今回は新薬候補品の発売前の最後ステップである「承認申請」のプロセスについてお話します。

いよいよ、新薬候補品の承認が取れるかどうかの重要なステップになるという事ですね!

第6回目は、新薬候補品の承認申請について、次の4つのステップをお話しします。

       (1)申請資料の作成及び当局への申請
       (2)新薬候補品の承認審査のプロセス
       (3)新薬候補品の薬価の取得
       (4)新薬の発売

それでは、それぞれのステップについて、詳しく説明します。

(1)申請資料の作成及び当局への申請

・新薬候補品について実施した全ての試験が終了したら、厚生労働大臣(PMDAを介します)へ申請するため、申請資料を作成します。この資料を作成するには、前回お話ししたCTD(コモン・テクニカル・ドキュメント)の書式に従って、数か月掛けて資料を作成する事になります。

PMDAのサイト:ICH M4 / CTD

・CTDは、平成12年に日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)によって初めて合意され、平成13年から実際にCTDを利用した承認申請が行われるようになりました。また、平成14年には ICHによって、CTDを申請側から審査側に電子的に提出する「電子化コモン・テクニカル・ドキュメント(eCTD)」が合意され、更なる効率化のため、eCTDによる申請が行われています。
・CTDは5つの部(モジュール)で構成されていて、第1部(モジュール1)については各地域に特異的な部分になります。第2部から第5部迄(モジュール2から5)は、全ての地域への申請において共通となるよう構成されています。
・CTDの各モジュールに記載する内容は以下のようになります。

1) 第1部(モジュール1) 申請書等行政情報及び添付文書に関する情報
・この部には、例えば、当該地域における申請書又は添付文書(案)といった各地域に特異的な文書が含まれます。
2) 第2部(モジュール2) CTDの概要
・第2部(モジュール2)は、薬理学的分類、作用機序及び申請する効能又は効果等の新規候補品の全般的な概略から記載する事にします。記載順としては以下の順番で7項目を含めます。
      1.CTD全体の目次
      2.緒言
      3.品質に関する概括資料
      4.非臨床試験に関する概括評価
      5.臨床試験に関する概括評価
      6.非臨床試験に関する概要
      7.臨床試験に関する概要
3)第3部(モジュール3) 品質に関する文書    
・品質に関する資料を、ガイドラインに記載された様式で添付する。
4)第4部(モジュール4) 非臨床試験報告書
・非臨床試験報告書を、ガイドラインに記載された順序で添付する。
5)第5部(モジュール5) 臨床試験報告書
・臨床試験報告書及び関連資料を、ガイドラインに記載された順序で添付する。

CTDの構成の概念図は以下のようになります。

             CTD構成の概念図

・申請資料の作成について、纏めてみると、第1層(つまり第1部)の部分には、新薬候補品の起源、発見の経緯、開発の経緯、効能・効果、用法・用量、その他の設定根拠、海外での発売状況等全般的な事を纏め、さらに申請する各国特有の文書を纏めることになります。典型的なのは、「お薬」の箱の中に入れる説明文書の案(お薬では「添付文書」と言います)等が挙げられます。
・また、この他にも、医薬品リスク管理計画(RMP : Risk Management Plan)の案を作成し、申請資料に含めることになっています。RMPとは、新薬候補品毎に、(ⅰ)重要な副作用(安全性検討事項)、(ⅱ)市販後に実施される情報収集活動(医薬品安全性監視活動)、(ⅲ)医療関係者への情報提供等の新薬候補品使用時のリスクを減らすための取り組みを纏めた資料です。

(2) 新薬候補品の承認審査のプロセス

 次に、新薬候補品の承認審査プロセスについて、下図の「新医薬品承認審査のプロセス」に従って、4つのステップに分けて説明します。

    1)新薬候補品の申請資料の審査
    2)新薬候補品の非臨床試験のGLP適合性調査及び臨床試験のGCP適合性調査
    3)新薬候補品の製造所のGMP適合性調査
    4)薬事・食品衛生審議会への諮問と厚生労働省大臣の承認

      PMDA新薬審査第五部:医薬品の承認審査の概要ぺージ12
      https://www.pmda.go.jp/files/000155539.pdf

それでは、1項目ずつ順番に説明します。

1)新薬候補品の申請資料の審査  
・申請資料は、先ずPMDAに提出しますが、PMDA内では審査するための「審査チーム」を作り、そこで提出した資料を細かく審査します。しばらくするとPMDAから審査資料に対する200~300 の質問事項(照会事項と言います)が届きます。その回答を作成し提出すると、製薬会社と審査チームで「面接審査会」を開催して(PMDAに出向いていきます。通常、企業側の外部の専門家にも同席してもらいます)、主要なポイントについて意見交換が行われます。PMDAは、それを基に審査報告書を作成します。この際、PMDAサイドでも外部の専門家との専門家協議を行って、審査内容に対する協議を行ってます。問題点が指摘されれば、審査報告書を修正して、最終の報告書が出来上がります。

2)新薬候補品の非臨床試験のGLP適合性調査及び臨床試験のGCP適合性調査
・申請資料の審査と並行して、第3回目のテーマで説明した非(前)臨床試験の資料に対するGLP 適合性調査(書面、実地)、並びに第4回目のテーマで説明した臨床試験の資料に対するGCP適合性調査(書面、実地)が行われます。PMDAの調査官が会社を訪問し、資料がGLP、GCPの基準に基づいて実施されたものかを書面調査、並びに実際に会社内の関連部署を確認します。また、GCPの実地調査では、治験に参加した病院(3~4施設位)を実際に訪問して、事務局に保管されている資料、カルテ、医師、CRCへの質問等を行って、GCPの基準を満たしているか評価します。この評価結果は、先ほどお話しした「審査チーム」に報告されます。いずれかの調査で不適合の判定が出た場合には、申請を取り下げる必要があります。

3)新薬候補品の製造所のGMP適合性調査
・この話題については、第8回目のテーマで説明する内容ですが、新薬候補品の承認審査プロセスでは、新薬候補品の成分(原薬)や製剤が、GMPa)の基準を遵守して製造されているかを、実際にGMP調査官が関連する製造所を訪問して評価するものです。これも調査結果によって、不適合な判定が出れば、申請を取り下げる必要があります。

a) GMPとは「Good Manufacturing Practice」の略で、製造所における製造管理、品質管理の基準のことです。原材料の入荷から製造、最終製品の出荷にいたるすべての過程において、製品が「安全」に作られ「一定の品質」が保たれるように、細かな基準が定められています。

4)薬事・食品衛生審議会への諮問と厚生労働省の大臣の承認
・PMDAの審査・調査を全てクリアーした場合には、厚生労働省の大臣が薬事・食品衛生審議会に申請資料の妥当性を諮問し、疑義が出されなければ、厚生労働省の大臣が新薬候補品を承認する事になります。        

(3)新薬候補品の薬価の取得

・医療用医薬品の価格は、「薬価(やっか)」と呼ばれています。薬価は、国の医療保険制度から、病院や保険薬局に支払われる時のお薬の価格のことで、製薬企業の資料等をもとに厚生労働省が決める「公定価格」になっています。つまり、製薬企業が勝手に薬価を決めることは出来ません。 
・新薬候補品について、最終的に厚生労働省の大臣の承認が得られたら、次に薬価収載のための申請をすることになります。手順としては「薬価基準収載希望書」に新しいお薬の有効性、安全性の特徴、リスクベネフィット、年間の患者さんの数、売り上げ予測等の必要な情報を記載して、厚生労働省の経済課に提出します。その後、薬価算定組織において検討が行われ、原則、申請後60日以内には薬価が決定し、収載されます(2月、5月、8月、11月の年4回)。

(4)新薬の発売

・新薬候補品の承認が得られれば、新薬として販売できるわけですが、それには、日本では「製造販売3役」を中心としたGQP(医薬品等の品質管理の基準に関する省令:Good Quality Practice)、並びにGVP(医薬品等の製造販売後安全管理の基準に関する省令:Good Vigilance Practice)の責任体制が構築され、「総括製造販売責任者」は製造販売業者(社長)の委任を受けて、GQPを管理する「品質保証責任者」、GVPを管理する「安全管理責任者」を管理・監督する体制が必要になります。
・また、「製造販売後調査」が実施できる体制が必要になります(製造販売後調査の話は、次回説明することになっています)。また、新薬候補品を開発するには、医薬品製造販売業の許可が必要ですが、通常の医薬品の流通経路としては、医薬品製造販売業者は医薬品卸売販売業者(いわゆる医薬品卸業者)に販売するので、販売業者との契約などの交渉も必要になります。

【今回の話の纏め】

 今回はいろんな用語が出てきて理解するのは難しかったかもしれませんが、要は流れとしては、実施した試験成績をCTDという書式で申請資料を作成し、それをPMDAに提出して、実施した試験の成績に関する疑義、不足している試験の有無、問題のある試験成績等の有無について協議し、PMDAとの「面接審査会」を経て問題がなければ、厚生労働省大臣が薬事・食品衛生審議会に諮問して疑義がなければ承認されることになります。一方、この過程で、申請資料の内容の他、GLP、GCP、GMPの適合性調査(これらの省令に照らして)で重大な問題が見つかれば、承認は得られないので申請を取り下げるしかないという事です。

 

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5)医薬品開発に必要な「国際共同治験」を知る!

                      医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

今回のテーマは、「国際共同治験」という事ですが、あまり聞いたことがありませんが、どういう治験ですか?

確かに、一般の方はご存じないと思いますので、ここまでの歴史を含めて、お話したいと思います。

  第5回目は、国際共同治験が行われるようになった経緯を、4つの段階に分けて説明したいと思います。

(1)1985年以前は、日本人の治験データのみで申請。
(2)1985年に厚生省薬務局通知が発出され、一部、外国人の治験データも申請に使用。
(3)1998年にICHa)指針が合意され、日本人の治験データと外国人の治験データを活用して申請を実施。
(4)2007年に厚生労働省医薬食品審査管理課長通知が発出され、国際共同治験の基本的な考えが示され、国際共同治験への参加が推進。

a) ICHとは、医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use)のことで、薬事規制の国際標準化を推進する非営利法人です。各国の規制当局や業界団体が参加して、医薬品の品質・有効性・安全性の評価などに関わるガイドラインを協働して作成しています(平成27年に法人となり、参加メンバーも、当時、日本、米国、EU、スイス、カナダの規制当局と日本、米国、EUの製薬業界団体の他、オブザーバーとしてWHO及びIFPMA[国際製薬団体連合会]で構成されていた)。

  それでは順に、もう少し詳しく説明します。

(1)1985年以前は、日本人の治験データのみで申請。

・1985年以前では、海外ですでに治験が実施され効果、安全性に問題がなく、申請・承認されている医薬品であっても、日本で新薬候補品を開発するためには、海外で行っている治験と全く同じ内容の全ての試験を日本人を対象にして実施し、問題がなければ申請するという方法が行われていました。

(2)1985年に厚生省薬務局通知が発出され、一部、外国人の治験データも申請に使用。

・1985年に厚生省薬務局通知「外国で実施された医薬品等の臨床試験データの取扱いについて」が発出され、一定の要件を満たすものは、承認審査資料として申請に用いられる事になりました。但し、当時は、日本人における薬物動態に関するデータ、投与量設定に関するデータ、並びに比較臨床試験のデータも併せて提出する必要がありました。

昭和60年6月29日薬発第660号厚生省薬務局長通知
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta7049&dataType=1&pageNo=1

(3)1998年にICH指針が合意され、日本人の治験データと外国人の治験データを活用して申請を実施。

・1998年にICHにおいて、医薬品の作用に対する日本人と外国人の人種差、並びに日本と外国の環境の違い、医療実態の違い等(民族的要因と呼ばれている)を評価し、外国臨床試験データの利用を促進するICH指針(ICH-E5ガイドライン)が合意され、ICH指針に基づき科学的に必要と考えられる国内臨床試験データと共に、出来るだけ外国臨床データを活用して申請出来ることになりました。

PMDAサイト:外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因についての指針
https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0027.html

・これは、「ブリッジング試験」という治験に相当するもので、日本人の健康成人男性で薬物動態試験(臨床第Ⅰ相試験)と患者さんにおける用量設定試験(臨床第Ⅱ相試験)を実施し、 これらのデータを外国人の相応する試験のデータと比較して、大きな違いがなければ、民族的な要因は影響していないので、臨床第Ⅲ相試験(二重盲検試験)は外国人 のデータを用い、日本人では実施せずに申請するというものです。

(4)2007年に厚生労働省医薬食品審査管理課長通知が発出され、国際共同治験の基本的な考えが示され、国際共同治験への参加が推進。

・2007年に審査管理課長通知「国際共同治験に関する基本的考え方」が発出され、国際共同治験に関する基本的考え方が示され、企業における検討を促進し、日本の国際共同治験への積極的な参加を推進する事が求められました。

平成19年9月28日薬食審査発第0928010号:国際共同治験に関する基本的考え方
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3594&dataType=1&pageNo

・当初は、日本人での臨床第Ⅰ相試験の必要性、患者さんでの臨床第Ⅱ相・用量設定試験の必要性、国際共同治験に参加する場合の日本人の患者さんの割合の決定方法、海外では承認されている治験で用いられる対照薬や基礎となる併用薬剤が、日本では承認されてない場合の対応等、いろんな面で実施上の問題が見られましたが、種々の対応が検討されました。
・国際共同治験は、新薬候補品を早期に世界中で使用できるように、複数の国又は地域で、同時に実施する治験で、主に、臨床第Ⅲ相臨床試験で実施されることが多く、世界中の多くの患者さんが参加することになります。近年では、世界中の患者さんが医薬品をより早く利用できるように、世界規模での薬事戦略が治験の効率的な計画及び実施を目的として活用されています。
・最近、治験の中でも、国際共同治験による開発がかなりの割合を占めてきた背景として、開発コストの削減、各国市場への早期導入、他民族のデータの受け入れ推進、標準的な非臨床試験の重複実施の回避、臨床治験のICH E17「国際共同試験ガイドライン」の活用、各国収集症例数の削減等多くのメリットによるものと考えられます。日本が国際共同治験に参加する際、早期申請・承認取得、海外データの活用、ドラッグ・ラグの解消等のメリットが多いものの、一方で、治験開始までの準備期間の長期化、初期投資額の増加、日米欧同時申請の場合、時間とリソースがかなり切迫する事(例えば欧米で作成された申請資料CTD(コモン・テクニカル・ドキュメント)では、日本特有な記載事項がかなりあるので、書き直し・追記作業にリソース が必要な事等の問題も生じることから、日米欧で申請時期を多少ずらす等の工夫も検討する必要があると言われています。
・尚、国際共同治験は、全ての地域及び施設で ICH E6 ガイドライン(いわゆるICH-GCP)で述べられている国際的なGCP基準を遵守して行わなければならず、これには実施施設が規制当局によるGCP査察に応じることが求められています。

CTDというのは、どういうものですか?

CTDについては、次回の「承認申請」のテーマの際に詳しくお話ししますが、コモン・テクニカル・ドキュメント(Common Technical Document)と呼ばれるものです。この資料は、承認申請する医薬品の品質、非(前)臨床試験、臨床試験等に関する情報を纏めるための申請様式で、日米EUで国際的に共通化した資料のことです。

 

【今回の話の纏め】

  国際共同治験は、新薬候補品の世界同時開発を促し、世界各地でこれ迄別々に実施されてきた治験の数を減らすことが出来る事から、不要な重複を避けることが出来るようになりました。また、複数の国や地域において、より速い承認申請を行う事が出来るようになり、新薬候補品をより早く患者さんに届けることが出来るようになりました。日本では10年以上前に、ドラッグ・ラグと言って、世界の他の国では既に優れた医薬品が承認され、発売されているのに、日本では開発すらされていないことから、その医薬品を使用できない時期がありました。国際共同治験が、段々普通に行われるようになってから、新しい医薬品の同時開発、同時申請が可能となり、これ迄問題となって来たドラッグ・ラグがだいぶ解消されてきました。また、これ迄は欧米との国際共同治験がなされてきましたが、現在は日中韓等の東アジア地域における国際共同治験が増加しており、これらの治験が円滑かつ適切に実施できるような体制が確立しつつあります。

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4)医薬品開発に必要な「臨床試験」を知る!

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今日は「臨床試験」のお話と聞いていますが、第1回目の時に臨床試験を始めるには、事前にPMDAに治験届を出す必要があるとのことですが、それは何故ですか?

臨床試験、正確には「治験」といいますが、治験を開始する前にPMDAに治験届を出すのは、ヒトを対象とした治験を行なうに際し、保健衛生上の危害の発生を防止するため、必要な検討がなされているか、得られた成績に問題になる事はないか、安全性は担保されているか等をPMDAが確認し、初めてヒトに投与する治験では、提出後30日間を経過してからでないと、治験施設に治験の依頼を行う事が出来ないという制度があるからです。

PMDAのサイトへ

第4回目は、ヒトを対象とした「治験」について、次の3つの試験について説明します。

        (1)臨床第Ⅰ相試験
        (2)臨床第Ⅱ相試験
        (3)臨床第Ⅲ相試験

それでは、順番に説明したいと思います。

(1)臨床第Ⅰ相試験

・臨床第Ⅰ相試験では、通常は同意を得た少人数の健康成人男性を対象にして、少ない量から順に新薬候補品の用量(5用量位)を増やしていき、安全性(どの量まで副作用が殆どなしに投与できるか)について調べます。また、同時に血液や尿を採取し、身体の中にある新薬候補品の成分の量を測定し、どの位の割合で吸収され、どの位の時間で最高血中濃度に達するか、どの位の量の成分が身体の中にあるか、どの位の時間で身体の外に排泄されるかを検討します(これらは、動物で行った試験と比べて、推定した通りの結果が得られてるか等を検討する事になります)。尚、抗がん剤等、新薬候補品の種類によっては、この段階から患者さんを対象にして治験を行う事もあります。

(2)臨床第Ⅱ相試験 

・臨床第II相試験では、同意を得た100人から200人位の目標にした疾患(例えば、高血圧症)を有する患者さんを対象として、3~4の用量の新薬候補品を投与して、効果(高血圧症なら血圧低下作用)や安全性を比較・検討し、用量や投与間隔や投与期間等について、適切な条件を探す試験を行います。この場合、新薬候補品の他に、プラセボ(薬理作用のないもので、外観上は新規候補品と区別がつかないような偽薬のこと)も投与して、第1回目のテーマの時に説明しました二重盲検試験と同じように、主観的なバイアス(思い込み)を除いた方式を用いて試験を行う事が多いです。

(3)臨床第Ⅲ相試験

・臨床第III相試験では、ヒトに対する効果が見られ、安全性に問題ないことが確認できた場合に、同意を得たさらに多くの目標とした疾患を持つ数100人から1000人を超える患者さんを対象として、新薬候補品と従来用いられてきた既存薬(既存薬がない場合には、再度プラセボを用いる)を用いて、有効性、安全性を比較する検証的な試験(検証的とは臨床第Ⅱ相試験で見られた効果と安全性が正当な成績をあったことを確認すること)を実施します。通常、この試験では、先ほどもお話ししましたが、  第1回目のテーマでお話した二重盲検試験を用いて、医師も患者さんもどちらの薬剤を服用しているか分からないようにして、主観的なバイアス(思い込み)を除いた方式で試験を行います。また、この試験とは別に、新薬候補品を目標とした疾患を持つ患者さんに、1年位の期間に渡り投与する長期投与試験を行う事になります。

     以上のように、治験を行う場合には、少数例の健康成人男性から始めて、安全性を確認しながら、徐々に患者さんを対象とした試験を行い、患者さんの人数を徐々に増やして慎重に行うことになります。また、前回ご説明したように、治験を実施する場合には、必ず、GCP(臨床試験の実施の基準に関する省令に示された基準 : Good Clinical Practice)に基づいて実施する必要があります。

次に、患者さんを対象とした個々の治験がどのように実施されているかについて、細かなフローを以下に示します。

・手順としては、大まかに説明すると、初めに治験実施計画書、治験薬概要書、試験成績調査表、患者さんへの同意書及び同意説明文書等の治験に関する資料を作成します。
・次に、治験を実施を依頼する病院の選出、代表責任医師の選出など治験を実施するための体制づくりを実施します。
・体制が出来上がったら、PMDAへ実施する治験の治験届を提出して問題がなければ、治験を実施する全国の病院(30~100施設位)の院長、責任医師、薬剤部、検査部、看護師、事務局、治験コーディネーター(CRC) に対して治験の依頼を行います。
・各病院内で治験を行う体制を整備した上で、治験の説明会を全国規模ないしは病院毎に行います。この時点で、各病院に「治験薬」を設置します。
・次に治験に参加する患者さんの募集を行って、同意が得られた方を対象に新薬候補品等を投与して、治験を実施します。
・3か月から1年位の投与期間の間に得られた、新薬候補品の効果(例えば、血圧値の低下の程度)、安全性(副作用の発現の有無)、臨床検査値等のデータを試験成績調査表で全国の病院から収集します。
・集められたデータは、製薬会社等の統計解析分門で集計、解析し、治験成績の結果が出てきます。
・得られた結果を基に報告書(治験総括報告書といいます)を作成して、1つの試験が完了することになります。

尚、図の中に出ている、SMO、CROとは以下の事を意味してます。
・SMO(治験施設支援機関、Site Management Organizationの略)とは治験を実施する病院やクリニックと契約し、治験の仕事を支援する企業のことを言います。治験に関わる医師や看護師、事務局や製薬会社の仕事を支援することにより、治験の品質・スピード向上の支援をしています。業務を担当する人はCRC(Clinical Research Coordinator)と呼ばれています(比較的大きな病院では、病院で雇用されたCRCがいる場合があります)。
・CRO(医薬品開発受託機関、Contract Research Organizationの略)は製薬会社からの委託を受け、主に医薬品開発における臨床試験や製造販売後調査及び安全性情報管理を行う企業です。業務を担当するする人はCRA(Clinical Research Associate)と呼ばれています(製薬会社内でモニターの仕事をする方もCRAと呼ばれてます)。

【今回のお話の纏め】

  非(前)臨床試験で得られた試験成績を基に、ヒトに新薬候補品を投与した時の効果や安全性の予測を行い、明らかな効果が見られ、副作用があまり見られない場合には、ヒトを対象とした臨床試験(治験)を行うことになります。治験のやり方としては、先ずは、健康な成人男性に対し、少ない用量から1回投与し、問題なければ、用量を少しずつ増やして、検討を行い、次いで安全と思われる用量で1週位の反復投与を実施します。次に疾患を持った少数例の患者さんを対象とした臨床第Ⅱ相試験を行い、ヒトにおいて有効で安全な用法・用量、投与方法の検討を行います。ここまでのデータで、問題がなければ、申請前の最後の試験として臨床第Ⅲ相試験が比較薬(既存薬ないしはプラセボ)との、二重盲検試験を行って、比較薬よりも優れた効果が得られ、より安全な成績が得られるかどうかの検討が行われます。

                              医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,          

3)医薬品開発に必要な「非臨床試験」を知る!

                     医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

今回は、どのような事を、教えて頂けるのですか?

今回は、新薬候補品が見つかって、ヒトを対象とした臨床試験の間に行われる非(前)臨床試験と呼ばれる段階のお話しをします。

 第3回目は、非(前)臨床試験として次の4項目について説明します。

 以下のような、試験管内、あるいは動物を用いた基礎研究を詳細に実施して、ヒトに対して有効で安全に投与できる候補品かどうかを推定するための重要なフェーズになります。

     (1)新薬候補品の合成、分析、並びに原薬の製剤化の検討について
     (2)一般毒性試験及び特殊毒性試験について
     (3)薬効薬理試験及び安全性薬理試験について
     (4)薬物動態試験について

それでは、順番に説明していきます。

(1)新薬候補品の合成、分析、並びに原薬の製剤化の検討について

① 新薬候補品の合成、分析方法等の検討
・新薬候補品(ここでは効果のある成分を原薬と呼びます)の合成方法の確立、安定した製造(収率の向上)、製造量の増大方法(スケールアップの方法)を検討します。また、同時に原薬の物理学的化学的特性(溶解性、吸湿性、結晶形、安定性等の様々な性状)を確認し、目標とする原薬が常に確実に製造されていることを確認するための規格試験、確認試験、定量試験、安定性試験等の各種の分析方法の確立(品質を確保するための作業)、評価を行って、安定製造、安定供給を目的とした検討が行われます。
                                     
② ヒトに投与する際の製剤の検討   
・新薬候補品をヒトに投与するためには、それぞれの候補品に適した投与経路(経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、経皮吸収投与、点眼等)を検討し、すなわち、どのような経路で投与すると効果が確実に発揮され、副作用が少ないかを検討した上で、それに適した製剤を作成する必要があります。製剤中には効果(薬理作用)を持った成分に加え、それぞれの製剤を作成する際に必要となる効果(薬理作用)を持たない添加剤(安定化剤、賦形剤、コーティング剤、結合剤、保存剤、崩壊剤等)を加えて、ヒトに投与するのに適した製剤の設計・開発を行うことになります。最終の製剤は、1回目のテーマでお話した「臨床第Ⅲ相試験」の開始前までには完成している必要があります。また、製剤についても、原薬と同様に、品質を確保するための、各種の分析試験の確立、評価、安定性試験も実施する必要があります。

これまでの話で、有効性とか、効果とか、薬理作用とかいろんな言葉が出てきますが、どのように違うのでしょうか?

分かりずらかったですね! この世の中には、いろんな物質がありますが、動物やヒトに対して、何らかの影響を及ぼす作用を持つか持たないかで薬理作用があるかないかという使い方をします。その薬理作用が、ある病気を回復・改善するような場合には効果が見られた、あるいは有効性が見られると言っています。

(2)一般毒性試験及び特殊毒性試験について

① 一般毒性試験
 一般毒性試験については、次の5試験について説明します。

・単回投与毒性試験
  いずれかの試験から急性毒性の情報が得られる場合には、別途単回投与試験を実施する事は推奨されていませんがa)、過量投与時の影響を予測するため、臨床第Ⅲ相試験開始前には実施しておく必要があります。

a) 環境省が制定した「動物愛護保護管理法」により、動物を用いた試験を行う場合には、動物実験の3R(使用動物数の削減/苦痛の軽減/代替え法)の原則に従う必要があるため、試験項目、実施時期には、お薬の内容に応じて、試験内容を考慮する必要があります。

           (環境庁の資料)
   https://www.env.go.jp/council/14animal/y143-21/ref01.pdf

・反復投与毒性試験
 原則として、臨床開発中は2種のほ乳動物(1種はげっ歯類、1種はウサギ以外の非げっ歯類b))で実施され、その試験の期間は、臨床試験(治験)の期間と同じか、あるいはそれを超えている必要があります。また、承認申請時の最終データとしては、臨床における使用期間に応じた投与期間で試験を実施する必要があります。

b) げっ歯類とは、哺乳類の中のネズミ目の事で、マウス、ラット、ハムスター、リス等を代表とする動物群で、上下に一対ずつの門歯があり、絶えず伸び続けるので、歯がなくなることがないものを言います。非げっ歯類は、動物試験で用いられるのはイヌ、サル、ウサギ、ミニブタ等になります。

・生殖発生毒性試験
 臨床開発を進めるためには、一般的に以下の3種類の試験により、生殖発生毒性の評価が行われています。
ⅰ)受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験
ⅱ)2種の動物種を用いた胚・胎児発生に関する試験
ⅲ)出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験

・遺伝毒性試験
 遺伝毒性試験は、新薬候補品の発がん性や遺伝的障害を短期間で予測するためのスクリーニング試験です。新薬候補品を反復投与する場合には、細菌を用いる遺伝子(復帰)突然変異試験(Ames試験)、染色体損傷(異常)試験をヒト試験の開始前に実施する必要があります。また、標準的に実施する他の遺伝毒性試験である小核試験は、ヒトの臨床第Ⅱ相試験の開始前に完了しておく必要があります。

・がん原性試験
  がん原性評価の必要な新薬候補品おいては、通常実施されている従来の2種のげっ歯類(マウス、ラット)による長期がん原性試験の代わりに、一種の長期がん原性試験に加えて、新たな短期・中期in vivoげっ歯類試験(遺伝子改変動物を用いた短期がん原性試験等)をもう一つ実施することにより発がん性を評価することが基本的になってきています。長期投与試験の場合は、承認申請迄に完了するように求められています。

② 特殊毒性試験
・皮膚一次刺激性試験
 ヒト皮膚に接触する可能性のある新規候補品の皮膚刺激性を調べる局所刺激試験です。

・免疫毒性試験
 免疫臓器の重量測定、血液学的検査、病理組織学的検査などから免疫毒性の有無を推測するための試験です。

・発熱性物質試験
 発熱性物質試験では、新薬候補品をウサギの静脈内に投与し、直腸体温の変化を測定し、発熱性物質の有無を調査する試験です。

・エンドトキシン試験
 エンドトキシン試験では、発熱性物質の中でも、特にエンドトキシンを検出する試験法です。

(3)薬効薬理試験及び安全性薬理試験について

① 薬効薬理試験
・薬効薬理試験は、病態モデル動物等を用いて新薬候補品が対象とする疾患に効果があるかどうか、どの位の量(用量)で効果が発現するか、効果と用量の間に相関性はあるか、効果の発現に再現性はあるか、推定最小薬理作用量はどの位か、効果を示すのはどのようなメカニズムか、構造式のどの部分が効果に寄与しているか、主な代謝物に同じような効果があるか、効果はどの位持続するか等、新薬候補品の薬理作用の発現について、詳細に検討を行います。

② 安全性薬理試験
・安全性薬理試験としては、主要な生理機能となる中枢神経系、心臓血管系、呼吸器系、消化器系、生殖器系等に及ばす影響を明らかにするための試験を、ヒト試験が開始される前に完了させておく必要があります。

(4)薬物動態試験について

・薬物動態試験とは、新薬候補品が体の中に取り込まれて(吸収)、身体のどの部分に集積し(分布)、どのように無毒化され(代謝)、身体の外に出ていく(排泄)かを検討する動物を用いた試験です。
① 吸収
・典型的な例として、新規候補品を口から飲んだ場合、どの位の割合が腸管から吸収されて血液中に入るか(生物学的利用率)、飲んでから最も高い血中濃度になるにはどの位時間が掛かるか(最高血中濃度到達時間)、最高血中濃度はどの位の量か(Cmax)、服用した用量と最高血中濃度に比例関係はあるか、どの位の時間で体の中からなくなっていくか(消失時間)、さらには薬効薬理試験で検討した推定最小薬理作用量はどの位の血中濃度か、それは1回投与した場合に、どの位持続するか等を検討します。

② 分布
・ 体の中に吸収された新規候補品の成分は、どの臓器にどの位の量が集積するか、どの臓器に多くの量の成分が集積しているか、各臓器から濃度が下がるのにどの位時間が掛かるか、安全性薬理試験の結果と各臓器の集積度合いに関連性はありそうか等を検討します。

③ 代謝
・新規候補品の成分も、ヒトの身体にとっては、異物になりますので、ヒトはそれを体の外に出すための仕組みを持っています。典型的な方法としては肝臓に薬物代謝酵素があって、体の中の異物を無毒化(代謝)する働きをします。新規候補品の成分は、代謝を受けて、分解していきます。

④ 排泄
・代謝を受けて小さな成分になったものは、尿、糞、呼気、皮膚等を介して身体の外に排泄されていきます。

  尚、上記の非(前)臨床試験のうち、主に安全性に関係する試験については、臨床における副作用の面で重要な情報が得られる事から、主要な試験は「医薬品等の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令に示された基準」(通称GLP省令 : Good Laboratory Practice)を遵守した試験であることが求められ、実施した試験はPMDAによる信頼性保証に関する調査が行われます。一方,薬効薬理試験や薬物動態試験に関しては、GLP 試験として実施する必要はありませんが、一般に「信頼性の基準」と呼ばれる一定の基準に従って実施する必要があります。ちなみに似たような用語として、後日出てきますが同じような信頼性保証業務としてGCP(臨床試験の実施の基準に関する省令に示された基準 : Good Clinical Practice)、GPSP (製造販売後の調査と試験の実施の基準に関する省令に示された基準 :  Good Post-marketing Study Practice )、GMP (医薬品等の製造管理及び品質管理の基準 : Good Manufacturing Practice)等があります。

GLP、GCP、GPSPの信頼性保証業務(PMDAのサイトより)
https://www.pmda.go.jp/review-services/inspections/0001.html
GMP適合性調査業務(PMDAのサイトより)
https://www.pmda.go.jp/review-services/gmp-qms-gctp/gmp/0001.html

省令とは法律とどう違うのですか?

日本の法体系は、憲法のもとに、法律(国会が制定)⇒ 政令・施行令(内閣が制定)⇒ 省令・施行規則(各省庁の大臣が制定)、さらに、法令ではないものの、告示・通達・通知(各省庁の組織の長、局長・課長等が発出)の階層で成り立っています。省令は、法律で制定された事を、さらに具体的にしたもので、法律と同様の規制です。

【今回のお話の纏め】

  新規候補品といっても、ヒトにとっては異物になります。疾患に対する効果(薬理作用)を有していたとしても、強い副作用があるものは「お薬」にはなりません。「お薬」になる候補品は、ベネフィット(効果)が、リスク(副作用)より明らかに優れていなければなりません。逆に言えば、「お薬」は、どんなものでも、副作用が出る可能性はゼロではありません(「お薬」と言えども、ヒトにとっては異物である事には変わりはないからです)。従って、「お薬」は、常に各々の疾患に対してベネフィットーリスクを考慮して、そのヒトにとって、ベネフィットがリスクを上回るときに使用する事が一番重要です。本日お話しした非(前)臨床試験は、そのヒトに対するベネフィトとリスクを明確にするために、品質、有効性、安全性を明らかにするために行う試験になります。

                      医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

2)医薬品開発に必要な「新薬候補の探索」を知る!

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第1回目の「お薬」の開発の流れの話は、分かりましたか?

大体の流れは理解できました。薬の開発に、こんなに長い時間と多くの試験を行うとは知りませんでした。

 今回から、もう少し詳しい内容で、「お薬」の開発に関する話をしますので、理解を深めてもらえればと思います。それでは、今日は「新薬候補の探索」の説明を行います。

  第2回目は、「お薬」を開発する際の入り口となる「新薬候補の探索ないしは開発化合物の発見」について、お話しします。

  ここでは、以下の7つのポイントについて、説明します。

  (1)化合物ライブラリーのスクリーニングによる新薬候補の探索
  (2)他の製薬会社、大学等の研究機関の間での化合物ライブラリーの相互利用
  (3)他の製薬会社、大学等の研究施設の間での研究開発の提携
  (4)人工知能(AI)を活用した新薬候補探索の短縮化
  (5)各疾患の発症メカニズム解明を基にした、新薬候補品の探索
  (6)ドラッグリポジショニングによる新しい適応症の拡大
  (7)新薬候補品を有するベンチャー企業の買収等

   それでは、順番に説明したいと思います。

(1)化合物ライブラリーのスクリーニングによる新薬候補の探索 

・多くの製薬会社では、過去の新薬候補品の探索の研究で合成した化合物や、外部から入手した化合物を保管し、「化合物ライブラリー(数10万の化合物を持つ企業もあるが、可能性ある化合物は、その何十倍もあると言われている)」を構築しています。1990年代に、新薬候補品の探索研究では、標的分子に対して数万、数10万の化合物ライブラリーから薬理活性を持つ候補品を網羅的に探索するハイスループットスクリーニング(HTS)技術が誕生し、日本でも導入されています。このように、数多くの化合物ライブラリーから先ず薬理作用のある候補品を見出し、さらに、効果の強い化合物を合成して、新薬に適した候補品を見出す方法が用いられてきました。
現在、低分子の新薬候補品のターゲットは少なくなってきているので、最近では低分子以外の抗体、核酸、ペプチドに候補品を見出そうとしている企業が多くなっています。

今日は私からも質問してもいいですか?   ハイスループット・・とは、何ですか?

もちろんいいですよ! この機械は、大量の化合物の生物学的及び生化学的活性を、速やかに分析するシステムで、それを実現するため、液体処理、ロボット工学、人工知能、高感度検出器、高速データ処理・管理ソフトウエア等の先端技術が用いられています。

(2)他の製薬会社、大学等の研究機関の間での化合物ライブラリーの相互利用

・各製薬企業や大学などの研究機関の間で、これ迄独自に構築してきた、それぞれの化合物ライブラリーを相互に提供して、それぞれの方法で新しい候補品を見つける方法が行われています。

(3)他の製薬会社、大学等の研究施設の間での研究開発の提携

・上記と同じような意味合いで、各製薬企業や大学などの研究機関が、それぞれ独自に研究してきた成果を持ち寄って、新たな候補品の探索のための研究開発の提携を行っています。

(4)人工知能(AI)を活用した新薬候補探索の短縮化 

・化合物ライブラリー設計の使用される技術に関し最近では、人工知能(AI)を活用して、判定制度の向上や各種の測定値の予測度の向上に用いられています。

(5)各疾患の発症メカニズム解明を基にした、新薬候補品の探索

・化合物ライブラリーから、その疾患に効果があるものをスクリーニングして、候補品を見つけ出すのではなく、ある疾患の発症メカニズムが不明の場合に、その発症メカニズムを、先ず解明して、その研究で明らかにされた疾患関連遺伝子やタンパク質が、実際の治療や新薬の候補品になり得るか検討する方法も行われています。

(6)ドラッグリポジショニングによる新しい適応症の拡大

・ドラッグリポジショニングとは、ヒトでの有効性や安全性が確認され、既に発売されている既承認薬について、他の適応症への効果を検討して、効果が見られたものについて、別の疾患に対する新たな治療薬として開発する方法です。 既承認薬については、物理化学的な特性、安定性試験、非臨床試験、臨床第1相試験等は既に実施され、ヒトへの安全性も確認されている事から、新たな適応症に対する有効性を証明すればよいことになります。従って、開発期間の短縮、開発コストの低減等のメリットがあり、ここ10年位の間に多くの薬剤が、この方法を用いて新たな適応症の開発を行っています。

(7)新薬候補品を有するベンチャー企業の買収等

・最後は、科学的な手法ではありませんが、現実問題として、新規の候補品を見つけるのは、極めて難しいことから、既に新規の候補品を開発したベンチャー企業等を丸ごと買収して、その候補品の開発を行うこともあります。

新薬の候補品を幾つも作って、実際発売されるのは、どの位の確率ですか?

2万~3万の候補品の内、1製剤位が発売に漕ぎつけると言われてます。

【今回のお話の纏め】

  今日は、「お薬」の開発の最初のステップとなる「新薬候補の探索」について話をしました。以前は、化合物をたくさん作って、ひたすらスクリーニングを行って、効果があって、安全な候補品を見つける作業が行われてきました。その後、ハイスループットスクリーニングの導入により、その作業が高速化されるともに、効率よく新薬の候補品を見つけられる研究も進みました。しかしながら、本当に有用な薬剤は、数年に1薬剤見つけられれば良いほうで、ある疾患に優れた有効性があり、副作用が殆どなく、臨床における治療体系を変えるような画期的な薬剤は簡単には見い出せないのが現状です。

                     医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

1)医薬品開発に必要な「全般的な知識」を知る!

                     医薬品開発の流れ, 基礎試験, 臨床試験, 申請業務,

 このブログを書くきっかけになったのは、冒頭の「本ブログについて」でもお話ししたように、新型コロナウイルスの流行を契機として、一般の方々や患者さんの間で、医薬品の緊急承認や副作用に対する問題、またここ1~2年の間に幾つもの後発医薬品a)会社の医薬品医療機器等法(医薬品等に関する法律:以下「薬機法」と略します)の違反による業務停止、その結果としての医薬品の供給不足に対する不安など、医薬品に対する一般の方々や患者さんの関心が高まっている事から、先ずは、通常医薬品はどのように開発されているのか、どのように解決しようとしているのか、結果として、安心してお薬を飲んでも大丈夫なのかをお話ししたいと思います。

a) 後発医薬品とは、先発医薬品会社が開発した新薬の特許期間が過ぎた後に販売される、その新薬と同じ成分を含む医薬品の事です。

何か難しそうだけど理解できるかな?

出来るだけ分かり易く説明しますので、安心してください。

 第1回目は、医薬品(このブログでは医療用の医薬品b))について、候補になる物質が実際にヒトに使用される迄の開発の全般的な流れについて、説明したいと思います。

b) 医薬品は大きく2つに分けられ、医師の処方箋がないと服用できない医療用医薬品と、ドラッグストア・薬局などで処方箋なしで購入できる一般用医薬品(市販薬)があります。

 新薬を開発するには、次の図に示すようなステップで10年以上の年月と数100憶円の費用を掛けて進めています。しかし、数多くの開発候補品の中から、最終的に承認が得られ、発売されるのは、1~2 製剤と、ビジネスとしては、割に合わない一面があります。

   ここでは、以下の5項目について説明を行います。
   (1)新薬候補の探索、開発化合物の発見
   (2)非臨床試験
   (3)臨床試験
   (4)PMDAc)、厚生労働省への承認申請
   (5)製造販売後調査・試験

c)PMDAとは、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency )のことで、医薬品等の品質、有効性およ安全性について、治験前から承認までを指導・審査する厚生労働省所轄の独立行政法人です。

PMDA

それでは、1項目ずつ、概略をお話したいと思います。

(1)新薬候補の探索、開発化合物の発見

・新しい「お薬」の候補品を見つけるには、一般的は化合物の合成、培養、抽出によって、候補品を集め、効果があって、毒性が少ないものを選び出す作業を行っています。現在では、さらに、目標とする疾患の原因を先に解明し、例えば遺伝子欠損が疾患の原因になっているなら、それをターゲットにして、効果があって安全な化合物を探す方法も行われています。

(2)非臨床試験

・候補品が見つかったら、次にヒトを対象とした臨床試験を行う前に、試験管内での試験、あるいは限られた数の動物を用いた非(前)臨床試験が行われます。

非(前)臨床試験については、次の4つの項目について、説明していきます。

① 原薬の物理化学的特性、規格試験法、安定性試験
・「お薬」の成分を原薬と呼びますが、先ず、原薬がどのような性状を持っているか(水や油に溶けやすいか、光に安定か等)、どのようにして成分の量を測定するか、不純物はどの位含まれるか、どのようにして精製するか、あるいは、どの位の期間分解されずに安定か等の試験を行い、化合物が設定する基準に常に適合するものであるように検討を行います。これは、先々その薬の製剤が出来た場合にも、同様な基準を設ける事になります。

② 一般毒性試験及び特殊毒性試験
・一般毒性試験では、単回投与毒性試験、反復投与毒性試験、生殖発生毒性試験、遺伝毒性試験、がん原性試験等、特殊毒性試験では、皮膚・粘膜刺激試験、免疫毒性試験、発熱性物質試験、エンドトキシン試験等を行います。

③ 薬効薬理試験及び安全性薬理試験
・薬効薬理試験では、対象となる疾患に対する効果があるかどうか、どの位の量で作用が出るか等を検討します。一方、安全性薬理試験では、全身の臓器への影響を見るため、中枢神経系、心臓血管系、呼吸器系等にどのような影響を及ぼすか等の検討を加えます。

④ 薬物動態試験
・薬物動態試験では、例えば口から「お薬」を飲んだ場合、どの位の量が体の中に取り込まれるか、どの位のスピードで取り込まれるか、身体の各臓器にどの位の量のお薬が集まるか、どのような経路で作用がなくなるように無毒化(代謝)されていくか、どのようにして身体から排泄されていくかを検討します。

(3)臨床試験

・ここ迄の試験で、対象とする疾患において、その「お薬」候補のベネフィット(効果-有効性)がリスク(安全性)よりも、優れている場合には、PMDAに治験届d)を提出して、ヒトにおける臨床試験(正式には治験と呼びます)を行うことになります。

d)治験届とは、治験を行う場合には、治験に参加する病院に治験の依頼を行う30日前には、この治験の依頼を科学的に正当と判断した理由書、治験の試験内容を記載した計画書、患者さん用の同意書と同意説明文書、治験のデータを記載するための記載用紙(症例報告書:但し、記載すべき内容が計画書から読める場合には提出不要)、国内、海外で、これまでに得られているすべての試験成績をまとめた概要書をPMDAに提出し、確認を受ける必要があります。

臨床試験は3つのステップに分けて行います。

   ① 臨床第Ⅰ相試験
   ② 臨床第Ⅱ相試験
   ③ 臨床第Ⅲ相試験

それぞれについて説明します。

① 臨床第Ⅰ相試験
・同意を得た少数の健康成人男性の志願者を対象にして、「お薬」の安全性を検討する試験です。

② 臨床第Ⅱ相試験
・対象とする疾患を有する少数の患者さんを対象に有効で、安全な用法・用量、あるいは投与方法を探索するための試験です。

③ 臨床第Ⅲ相試験
・対象とする疾患を有する多数の患者さんで「二重盲検試験」等により、これ迄使用されていた既存薬と比較して、新しい「お薬」の有効性と安全性を検証するための試験です。

二重盲検試験って、どういうことですか?

二重盲検試験とは、新しい「お薬」とこれまでの既存薬とを比較する試験ですが、この試験のために、両方の薬剤を外見上は、誰が見ても違いが分からないような薬を作り試験をするもので、医師も患者さんもどちらの薬剤を服用しているか分からないようにして、主観的なバイアス(思い込み)を除いた方式で行う試験のことです。どの新薬も、通常は、このような試験をして評価されています。

(4)PMDA、厚生労働省への承認申請

・臨床試験の結果、新しい「お薬」が、これまでの既存薬と比較して、明らかに有効で、安全である場合には、新しい「お薬」の起源、発見の経緯、開発の経緯、効能効果、用法用量、添付文書等の全体像を纏めるとともに、その根拠となる国内、海外で実施した全ての試験データを纏めて、PMDAへの承認申請資料を作成し、提出する必要があります。
PMDAに提出した申請資料については、対象となる疾患の専門家を含むPMDA内のチーム審査、製造販売企業との面接審査会等を経て、問題が全てクリア出来た場合には、厚生労働省大臣が薬事・食品衛生審議会に諮問し、厚生労働省の大臣が承認する事になります。

(5)製造販売後調査・試験

・厚生労働省大臣の承認を受けると、新しい「お薬」を販売することが出来ますが、製造販売会社は、引き続き「製造販売後調査ないしは試験」を、実際の臨床の現場で実施する事になります。「製造販売後調査」の期間は、薬剤によって異なりますが、通常は8年間の特許期間(正式には再審査期間と呼びます)の間に、新しい「お薬」の有効性と安全性に関するさらに多くの臨床成績を収集し、再審査期間終了後に試験成績を纏め、PMDAに再度申請し、より適切な使用方法を確立する事になります。

再審査とは、どういう意味ですか?

当局から新しいお薬の承認を取った後も、先発医薬品企業は、引き続き、実際病院で新薬が使われた場合の成績(有効性や安全性のデータ)を集めて、薬剤によって、4年~10年後に再度、PMDAに申請して、より適切な使い方が出来るようにするための制度です。

【今回のお話の纏め】

  新しい「お薬」を開発するには、全体の流れとして「お薬」の候補の探索から始まって、試験管内、あるいは動物を用いた非(前)臨床試験の実施、次いで健常成人男性あるいは患者さんを対象とした臨床第Ⅰ相から第Ⅲ相迄の臨床試験を実施して、試験成績を纏め、PMDAに申請して、通常約 1 年間の審査期間ののち、問題がなければ承認を取得する事が出来ます。さらに、承認取得後も製造販売後調査を再審査期間中に実施して、調査成績を纏め、PMDAに再度申請し、適切な使用方法を確立する必要があります。

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